『旅のラゴス』とは、1984年から1986年にかけて雑誌『SFアドベンチャー』に連載された、筒井康隆による長編SF小説である。文明が退行し超能力が定着した異世界を舞台に、知を求める男ラゴスの生涯を綴る。北から南へ、そして再び北へと大陸を縦断する旅を通じ、人間の一生と文明の消長を乾いた質感で描き出している。
私的な動機で旅するラゴスの冷静な視点と、ロードムービーのような情緒が魅力の作品。知の探求という普遍的なテーマを壮大なスケールで構築した、連作長編叙事詩である。
『旅のラゴス』の概要
『旅のラゴス』とは、1984年から1986年にかけて雑誌『SFアドベンチャー』に連載された、筒井康隆による長編SF小説である。1986年に徳間書店から単行本が刊行された。
物語の舞台は、かつて高度な文明を保持していた人類が移住し、数千年の時を経て文明が退行した一方で、集団転移や壁抜けといった超自然的な能力が定着した世界である。主人公のラゴスは、失われた高度文明の知性を求めて北から南へ、そして再び北へと、生涯をかけて大陸を旅し続ける。
旅の途上で二度も奴隷の身に落とされるなどの苦難を経験しながらも、ひたすら歩みを進めるラゴスの姿を通じ、人間の一生と文明の消長を壮大なスケールで描き出している。異空間と異時間がクロスする幻想的な世界観の中に、知の探求という目的を持った男の生き様を構築した、連作長編叙事詩である。
1994年に新潮文庫版が刊行され、長らく安定した売れ行きを示すロングセラーとなったが、2014年頃より突如として10万部を超える爆発的なヒットを記録し「謎のヒット」として注目を集めた。
この異例の再ブレイクについては、新潮社の調査により、SNS上で拡散された「スタジオジブリによるアニメ化を著者が断った」という事実無根のデマが発端であったことが判明している。この噂をもとに書店の店頭POPが作られたことで注目が集まり、実売に繋がったとされる。なお、著者である筒井自身はアニメ化について歓迎する意向を示している。
『旅のラゴス』は、主人公ラゴスの語り口と各地で遭遇する奇想天外なエピソード、そしてロードムービーのような乾いた質感が特徴的な作品である。ラゴスは旅を通じて多様な人物と接するが、その視点は常に冷静であり、対象と一定の距離を保ち続けている。
旅の目的は、世界を救うような壮大な使命ではなく、あくまで個人的な動機に根ざしたものだ。その目的は物語の途上で唐突に達成されるが、記述はそこで途切れることなく、目的を果たした後の世界やラゴスの歩みも描き出されていく。
作者の筒井康隆について
筒井康隆(つつい やすたか)は、日本の小説家、劇作家である。1934年、大阪府出身。星新一、小松左京と共に「SF御三家」と称され、日本SF界の発展を牽引した大家として知られる。初期はパロディやスラップスティックな笑いを交えたナンセンスSFで人気を博し、『時をかける少女』などの代表作を生み出した。
1970年代以降はメタフィクション的手法を駆使し、純文学とエンターテインメントの境界を越える前衛的な実験作を次々と発表。1981年の『虚人たち』で泉鏡花文学賞、1989年の『ヨッパ谷への降臨』で谷崎潤一郎賞を受賞するなど、高い文学的評価を獲得している。また、1993年には自作の表現を巡る抗議騒動に対し、表現の自由を問うべく「断筆宣言」を行い社会的な波紋を呼んだ。
1996年の断筆解除後は、従来のSF的手法に加えて「老い」をテーマにした作品も精力的に執筆。2002年には日本芸術院会員に選出された。その活動は執筆に留まらず、俳優として映画やドラマに出演するなど、独自の存在感を放つマルチなクリエイターとして国内外で絶大な支持を得ている。
『旅のラゴス』のあらすじ・ストーリー
高度な文明を失った代償として超自然的能力を獲得した人々が暮らす世界。『旅のラゴス』は、主人公・ラゴスが一生をかけて知を求める姿を描いた連作長編SFである。
ラゴスは世界を旅し、行く先々で色々な人と出会い、さまざまな体験をする。
旅の始まりと超能力
高度文明を脱出した先祖が「この地」に降り立ってから2200年余り。ラゴスは南を目指す途上で、集団転移の能力を持つムルダム一族と出会い、彼らをシュミロッカ平原へと導く。道中では壁抜け芸人のウンバロや似顔絵描きのザムラ、不思議な風習を持つ「たまご道」の町など、異能と異空間がクロスする世界を遍歴していく。
銀鉱での苦役
バドスの町で奴隷狩りに遭ったラゴスは、銀鉱へと連行され過酷な労働を強いられる。7年もの歳月を不毛な採掘に費やすが、知を求める情熱は潰えず、脱走に成功。再び南の大陸を目指し、ワインの海を渡る。
知識との邂逅と王国の建設
先祖が乗ってきた宇宙船の残骸がある「キチ」を経て、移住者の残した書物があるポロの盆地へ到達する。ラゴスはドーム内で15年間、かつての高度な文明の記録を読み耽る。その間、彼の知性に惹かれた人々により、ラゴスを王と仰ぐ「王国」がドームの外に建設されるという奇妙な事態が起きる。
帰還と次なる旅
王の座に執着せず故郷キテロ市へ帰還したラゴスは、父の蔵書から「氷の女王」の記述を見出す。かつて出会った女性デーデの面影を追い、老境に差し掛かりながらも、ラゴスは再び北の果てへと旅立つ。人間の一生と文明の消長を、一人の男の歩みを通して描いた壮大な叙事詩である。
この本を読んだのは20代前半でした。主人公ラゴスの語り口と訪れる街々の奇想天外なエピソードと、ロードムービーのような乾燥した手触りがなんとも言えない魅力を感じました。主人公は旅をしながら色々な人に出会いますが、とても冷静な視点、ともすれば他人事のような距離感です。旅の目的は語られてはいるのですが、それが世界を救うわけではなく何か壮大な世界へ繋がるものでもありません。ただただ個人的な理由と言えるものなのです。そして唐突に旅の目的は達成され、それからの世界も語られていきます。
人生は続くものであり、目的を果たした主人公も同じなのです。私はまだ人生の目的は達成していませんし、達成したとして人生は続くのだろうと確信しています。これからも旅のラゴスは何度も読み返すだろうし、そのたびに新しい考えが生まれると思います。
私の人生の一冊と言える旅のラゴス、貴方にも是非読んで欲しいのです。
『旅のラゴス』の登場人物・キャラクター
主人公
ラゴス
本作の主人公。高度文明の遺産である「先祖の書物を読破する」という目的を掲げ、北から南へ、そして再び北へと大陸を横断する。
物語では24歳から68歳までの彼の半生が描かれ、超常現象や苦難に対しても常に冷静かつ知的な好奇心を持って対峙する。
ムルダム一族
集団転移の能力を持つ牧畜民族。シュミロッカ平原の近くの村に住み、家畜を売るために放浪している。
デーデ
他者や獣との同化能力が極めて強い少女。ラゴスに対して特別な感情を抱いているような描写もあるが、一族の暴れ者であるヨーマと結婚し、共に村を去る道を選ぶ。
目次 - Contents
- 『旅のラゴス』の概要
- 作者の筒井康隆について
- 『旅のラゴス』のあらすじ・ストーリー
- 旅の始まりと超能力
- 銀鉱での苦役
- 知識との邂逅と王国の建設
- 帰還と次なる旅
- 『旅のラゴス』の登場人物・キャラクター
- 主人公
- ラゴス
- ムルダム一族
- デーデ
- ヤシ
- コルドン
- ポルテツ
- ゾム
- マグウ
- ヨーマ
- 旅の途上での出会い
- ザムラ
- マル
- ズダロフ
- ウンバロ
- ドリド氏
- ジョウン
- タリア
- バドスの町と銀鉱
- シャクロ
- ラウラ
- ジグ
- モニク
- チス・トリス
- バールレ
- ポルド
- 頭目
- ダロ
- 南の大陸と王国の関係者
- サルコ
- ボニータ
- タッシオ
- ゴゴロ爺さん
- ヌー教授
- 村長
- ニキタ
- カカラニ
- ケイロワ
- 帰郷の道中と実家(ラリストラル家)
- チタン
- ムト
- ウラムジ
- ラゴスの父
- ラゴスの母
- ゴルノス
- ゼーラ
- モス
- デノモス
- モニク
- リベストモス
- セシラ
- フリザ
- 北の果ての伝説
- ドネル
- 氷の女王
- 『旅のラゴス』の用語
- 動物・植物
- スカシウマ
- カナの実
- 地理
- 北の大陸
- リゴンドラ
- シュミロッカ平原
- オレンジの市
- 石造りの町
- バドスの町
- 銀鉱
- ロンパス
- サリュート港
- 顎の原
- オノロ
- キテロ市
- ナンツァ市
- エチポス
- 氷の国
- 南の大陸
- ベル港
- キチ
- ポロの盆地
- その他
- 超自然的能力
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