〈正常な愛〉から乖離してしまった悲しみを綴る、『仮面の告白』

三島由紀夫が〈生まれて初めて書いた私小説だ〉と語ったこの作品。女性の肉体よりも、早き死の運命と美しい肉体を持つ男性に性愛を傾けてしまった男の悲痛な想いを綴った物語です。

概要

時代は、1925年(大正14年)から、敗戦をはさんで1948年(昭和23年)までの間で、「私」の生い立ち、祖母を中心とした家族との関わり、粗野な学友に対するに同性愛的思慕、友人の妹との恋愛と結婚への逡巡などの出来事が、第二次世界大戦期、戦後期の時代背景の中に描かれている。

出典: ja.wikipedia.org

ある男の〈内に秘める性的傾向があまりにも同性と違いすぎる…〉といった悩みの告白が主体。秘密の暴露であるにもかかわらず、この上なく美しく堂々とした文体でつづられているため思わずため息が出そうになります。

悩ましい〈仮面の下〉の性癖

女性との健全な恋人関係を企てながらも、自分にその気がなく、不能であることに気づき愕然とする私。その一方で、男性の肉体美と英雄的な死への愛を胸中に育んでいる、その事実に彼は苦悩し続けます。

「私」は13歳の時、グイド・レーニの「聖セバスチャン」の絵に強く惹きつけられ、初めての「ejaclatio」(射精)を体験する。それが「悪習」の始まりだった。やがて「私」は、野蛮で逞しい級友の近江に恋をした。体育の授業中、鉄棒で懸垂をする近江の腋窩に生い茂る豊饒な毛に「私」は瞠目するが、それと同時に、自ら恋を諦めてしまうほどの強烈な嫉妬を感じた。「私」の中には、愛する相手に「寸分たがわず」似たいという熱望があった。「私」の偏愛は、血を流し死んでゆく与太者や水夫や兵士や漁夫へ向けられたが、そういった嗜好が、女の裸体を嗜好する友人たちと違い、特異なものであることに気づき始めた「私」は苦悩する。

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人妻とデート中ですら、彼の関心は刺青の入った肉体の美しい青年に向いていました。

プラトニックな関係のまま、人妻の園子と「私」は何度か逢い引き(密会)を重ね、クリスチャンの家に育った園子の気持ちは揺れ始めていた。二人は真昼のダンスホールの中庭に出た。「私」の視線は、ある粗野な美しい肉体の刺青の若者に釘付けとなり、彼が与太者仲間と乱闘になり、匕首に刺され血まみれになる姿を夢想した。しばし「私」は園子の存在を忘れ、彼に見入っていたとき、「あと5分だわ」という園子の哀切な声を聞いた。その刹那、「私」の内部で何かが残酷な力で二つに引裂かれ、「私」という存在が、「何か一種のおそろしい〈不在〉」に入れかわるのを「私」は感じた。

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実在のモデルがある?

作中に登場するの「草野園子」のモデルは、三島の友人の三谷信の妹・三谷邦子で、実際の初恋の相手である。三島は知人に送った手紙の中で、「彼女のことを書かないでゐたら、生きてゐられなかつた」と書き綴っている。
また、「近江」のモデルは、三島のクラスに落第してきた4、5歳年上の不良少年で、皆から「ブラ」という渾名で呼ばれ、三島はその少年を英雄視し、粗野なふるまいの中に優しさや美を見出していた。

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まとめ

世間から逸脱した感覚、いびつな性癖への悩ましさを詩的につづった『仮面の告白』。類似した相容れ無さを感じたことある人の胸には、響くモノがあるのではないかと思います。

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