あの夏で待ってる(なつまち)のネタバレ解説・考察まとめ

『あの夏で待ってる』とは2012年に黒田洋介が脚本を手掛け、J.C.STAFFにて制作されたオリジナルテレビアニメ作品。高校生の映画制作をテーマにした夏の恋愛ラブコメアニメ。何もないけど、何かしたい。そんな思いを抱えた主人公・霧島海人は仲間とともに映画を撮ろうと相談していた。そんな夏休み前のある日、記憶に残る見知らぬ風景の所在を探し求めて宇宙からやってきた「特別」な少女・貴月イチカ。これはそんな2人と、彼らを取り巻く周囲との関係を描いた、かけがえのないひと夏の物語。

『あの夏で待ってる』の概要

『あの夏で待ってる』とは2012年1月から3月まで全12話放送された、J.C.STAFFによるオジリナルアニメ作品。監督は長井龍雪が担当した。略称は『なつまち』または『あの夏』。
2014年8月29日に発売されたBlu-rayBOXには特別編(OVA)が収録された。

キャッチコピーは「その夏の思い出が、僕達の永遠になる」。

『おねがい☆ティーチャー』や『おねがい☆ツインズ』で知られる黒田洋介と羽音たらくがそれぞれ脚本とキャラクターデザインを手掛け、企画当初は「雑談から始まった結構いい加減な企画なのかもしれない」と黒田は語っている。この2人が同じ作品の制作に携わるのは、この2作品以来の約10年振りとなった。
8ミリカメラが趣味の少年・霧島海人と、記憶に残っている見知らぬ風景の所在を探し求めて海人が暮らす町へやってきた宇宙人の少女・貴月イチカの関係と、2人を取り巻く周囲との関係が描かれている。作品のテーマとしては「王道なラブコメ」を目指しており、主な登場人物の人数を抑えることで1人1人を丁寧に描いている。
Rayが歌うオープニングテーマ「sign」、やなぎなぎのエンディングテーマ「ビードロ模様」はどこか懐かしくもあり、少し寂しくなるようなノスタルジックな今作品の高校生の恋愛模様に彩りを添えている。

とても青く澄み渡る空。山を隠すほどの入道雲。
それはいつもの街の風景。それでも、かけがえのない「夏」だった。
男の子には「何もないけど、何かしたい」という漠然とした気持ちがあった。
だから仲間と一緒に映画を撮ろうと相談しているそんな時、「特別」な女の子がこの町にやってきた。
そして、彼の気持ちを「特別」にした。

男の子の名前は、霧島海人。
女の子の名前は、貴月イチカ。

彼らの夏が始まる。

『あの夏で待ってる』のあらすじ・ストーリー

赤毛の先輩

少年・霧島海人(きりしまかいと)は何かを残したくてカメラを構えた。人は死んだら天国へ行けるという。しかし、彼はそうは思わない。きっと誰かの心へ旅立ち、思い出となって生き続けるのだ。だから彼は、その思い出も全部残したくてカメラを構える。
祖父の遺品で、彼の趣味である8ミリカメラで湖周辺の夜景を撮影していたところ、突如として光り出した空に何かの物体を目撃する。次の瞬間には眩しい閃光と衝撃に包まれ、海人の体は吹き飛ばされ湖へと落下していく。薄れゆく意識の中、自分の手を掴もうとしている「綺麗な手」が見えたが、そのまま意識を失ってしまう。
しかし目が覚めるとそこはいつもの自室で、何も変わりのない日常がそこにあった。記憶を辿るが、カメラのテストをしようとしたところまでは覚えていたが、辿る途中で姉である七海(ななみ)の声に遮られる。その後の朝食では、七海がボリビアへ3ヶ月長期出張する旨を聞かされたが、自炊はできるしもうすぐ夏休みということもあり、一人残すことを心配して行くのを躊躇っていた姉を促した。

彼は一人暮らしとなるこのかけがえのない夏に、「何もないけど、何かしたい」という漠然とした気持ちだけがあった。
そんな思いを巡らせている登校途中、手に持っていたカメラをふと視線の先を走行する電車に向ける。とてもいいロケーションだと思っていた瞬間、電車に乗って俯いていた赤毛の女の子だけが目に焼き付いたのだった。

中学の時に転入してきた海人のことが気になっている谷川柑菜(たにがわかんな)。
柑菜とは幼馴染で親友である海人の趣味を活かして映画を撮ろうと画策する石垣哲朗(いしがきてつろう)。
柑菜の親友で海人の映画作りに協力することとなる北原美桜(きたはらみお)。

学校へ到着しクラスメイトである彼らと一緒に、映画を撮ろうと相談しているところに、「特別」な女の子がこの町にやってきた。偶然にも同じ学校で、思わずレンズを向けてしまうほど彼女に何かを感じて気になっている様子の海人。そんな彼を見兼ねて、その彼女が学校の3年生のクラスへ転入してきた貴月イチカ(たかつきいちか)という名前だと知った哲朗は、海人とともに彼女を自主映画制作に誘う。何を言い出すんだと咎めようとしていた海人を遮るように制作に参加を決めたイチカ、そして彼女のクラスメイトでイチカに興味を示す山乃檸檬(やまのれもん)も脚本家として制作仲間に加わったのだった。

先輩との同居生活

貴月イチカは、自分の記憶に残る見知らぬ風景を探し求め、宇宙の「遠い場所」から訪れた宇宙人の少女であった。宇宙船である機体が、スペースデブリと衝突するトラブルにより不時着した湖に唯一居た海人を着地の衝撃により怪我を負わせてしまい、急遽助けることになったのである。海人と知り合った際には海人の記憶が曖昧であったため一方的に知っている形であり、無事であることにイチカは安堵する。地球に来るまでの間に機体が事故を起こしたため、生活するための場所がなくなってしまったイチカは、スーツケースを抱えて彷徨っていた。
そんなイチカと学校からの帰り道に遭遇した海人は、行く宛てがなかった彼女を変な妄想を膨らませながら一晩自宅に泊めることにするが、一緒に過ごしていると体に異変が生じて倒れてしまう。異変に気付いたイチカの処置で症状は治まる。しかしキスをするという方法での処置であったため、傍目からは抱き合っているようにしか見えないその現場に、七海と柑菜が現れる。イチカは風呂上りでほぼ裸であったため、その衝撃的な場面に七海は気絶してしまうが、海人が異変を起こし介抱していたのは本当だった。住む場所がないイチカに同情し「一日とは言わず住めばいい」と七海が提案したことで、海人とイチカの同居生活が始まる。七海は出張で居なくなるため、海人一人では心配だからちょうどいいとは言え、柑菜は嫁入り前の挨拶の様で受け入れがたい顔をするのだった。

イチカの登場といきなり始まったこの同居生活で、彼らの関係は少しずつ変化していく。

それぞれの想い

夏休みが始まり、本格的に映画撮影が始まった。しかし、檸檬からは脚本を渡されただけで、事前の打ち合わせもなく行き当たりばったりの撮影が続く。監督をしていた海人もいつの間にかヒロイン役のイチカの相手役となることになった。ぎこちなくも良い雰囲気で撮影が進んでいくのを、柑菜は一人ヤキモキするのだった。

哲朗の姉にあたる小倉真奈美(おぐらまなみ)からのプレゼントで沖縄へ旅行することになった海人たち。せっかくの旅行ということで、柑菜は気合を入れる。映画撮影も順調に進んでいき、それぞれが想いを抱えながら楽しい夏を満喫しようとしていた。撮影の最中、海人は偶然小学校時代の友人であった樹下佳織(きのしたかおり)と再会し、妙に馴れ馴れしい彼女の態度にイチカと柑菜はヤキモキしてしまう事態となった。また佳織の友人である有沢千春(ありさわちはる)も哲朗に一目惚れしてアタックしているのをきっかけに、美桜も勢いで制止しつつ哲朗との距離を一気に縮めていく。

そして海人がイチカへの想いをはっきりさせたことで、それぞれ抱いていた、隠れていた想いがぶつかってしまう。海人は檸檬などの助言に後押しされた後、自らの想いを伝えて告白し恋仲となる。そして皆、それぞれその想いを気付きつつも気付いていない振りをしていた恋愛感情がはっきりしてしまったことで、複雑な想いと共にバラバラになってしまう。

先輩との別れ

それぞれがぎこちない状態のまま映画撮影も中断しているところで、イチカを探していた故郷の捜索隊が地球へ到着した。連れ去られそうになったイチカを守ろうと、海人が捜索隊の無人ロボットを撃墜してしまう事態となる。その後に宇宙からさらに大規模な捜索隊が派遣され、イチカは宇宙へと帰還しなければならなくなってしまう。迷惑を掛けてしまうなら故郷に帰ったほうがいいのではと諦めかけていたイチカは「そんな中途半端な想いで海人を好きになったのか」と柑菜に叱責され、哲朗や美桜にも止められ、諦めずに残ることを決意した。捜索隊が来ているため時間がない中で、イチカが地球に残るためには、かつて地球人と交流をしたとされているイチカの先祖の痕跡を発見しなければならないと知らされる。イチカが調べた過去のデータと現在のデータからイチカの探していた場所を割り出したが、イチカを連れ戻す捜索隊はすぐ近くまで迫ってきていた。

皆が囮となることで捜索隊を分散しつつ、追われつつも捜索隊の間隙をくぐり抜け、記憶の場所にたどりつく二人。そこにはイチカの記憶に残されたイメージが二人を待っていた。そしてそのイメージには相合傘のマークが記された一本の木が映っていた。それを見つけ喜ぶ二人だったが、イメージが消えた場所にあった木は根元から上の部分が折れてその痕跡はなくなっていた。その後捜索隊が到着しイチカは帰還させられてしまう。最後に自分のせいで海人や周りを傷つけてしまったことに涙するも、改めて海人の想いを聞き「何かを始めたくてお互いを見つけた。ちゃんと見つけることができた」と、後悔よりもこの数か月の思い出を絶対忘れないと心に誓いながら去っていった。

海人達も、彼女が来てからのこの数か月を思い返していた。
彼らはずっと、何もしてなくて、でも何かしたくて。
宇宙からやってきた彼女は、それを「特別」に変えていった。
喜びや悲しみ、全てが詰まっているこの夏を、彼らはきっと忘れない。

それぞれの道

イチカが帰還した後、海人達はそれぞれの日常を過ごす中、檸檬は転校という形で所属していた組織へ戻ることになり、海人達へ未完成の映画のフィルムを残していった。海人達は、いつかその続きを撮影できる日を待ちながら、それぞれの道を歩み出す。
哲朗は美桜の想いに応え交際するようになり、二人で東京の大学を目指す。海人も柑菜と関係が元通りとなり、普通に会話できるようになる。

最後のシーンでは、海人達が卒業した数年後が描かれ、小諸学園(こもろがくえん)ではある映画が上映されていた。

タイトルは『あの夏で待ってる』。

その映画でのラストシーンでは海外出張から帰ってきた七海のボリビア土産の民族衣装を着たイチカと、イチカの相棒で同じ宇宙からやってきたりのんで締められており、イチカがその後海人と再会できたことを意味していた。

二年後

「あの夏」の出来事から、二年後の物語。
海人も高校三年生になり、最後の夏休みを迎えようとしていた。
始まりはあの日と同じ。姉の七海に起こされた海人が、朝食を食べ、登校中に電車の走行する同じ構図を眺めている場面から始まる。だが、その手にカメラはなかった。

夏休みに入り、海人は勉強をせずに寝転がっていた。暇そうにしていたところに、スイカを持った哲朗がやってくる。
柑菜に海人がしっかりやっているかどうか見てきてほしいと頼まれたらしいが、彼も暇を持て余していたようで、海人が勉強をしている横でプラモデルを制作していた。
一方柑菜の家では美桜が来ており、お菓子作りをしていた。
無事に交際をスタートさせた哲朗と美桜だが、美桜には不満があり、哲朗のカバンに入っていたラブレターを捨てたのだと柑菜に愚痴を漏らしていた。
海人によると哲朗が周囲のみんなに交際のことをまだ話していないからだというが、哲朗からすると恥ずかしいようだ。

そんな折、哲朗が座布団の下にあるフィルムを見つける。
海人が先日フィルムの整理をしていた際に片付け忘れたものだと分かったが、そのフィルムは映画の撮影前に試し撮りをしたものだった。

その日の夜、海人は一人で鑑賞することにした。
見てみると、そこにはイチカの姿と、撮影で緊張しまだぎこちない演技をしている彼女があった。
当初は皆が、この映画は大丈夫なのだろうか、と思っただろう。
そこで、檸檬が作中でも作っていた「謎の飲料水」によって酔ったように本性をさらけ出す女性陣。

そんな笑顔溢れる二年前の映像を、そして二年前のできごとを思い出したかのように皆海人の家に集まり、花火をやった。

彼らは、あの頃フィルムに焼き付けたような、素晴らしいエンドロールを待っている。

場面は宇宙から地球に向かっている船内で、涙ながらに笑っている、彼女の姿で終わる。

『あの夏で待ってる』の登場人物・キャラクター

主要人物

霧島海人(きりしまかいと)

CV:島﨑信長
身長:158cm/体重:49kg/血液型:O型/誕生日:3月29日/趣味:8ミリカメラ、映画鑑賞/好きなもの:ハンバーグ、すき焼き、ブリッツ
嫌いなもの:アボカド、地震/好きなタイプ:優しくて綺麗な人/映画の役職:監督、撮影(カメラマン)

主人公。耳が隠れる長髪でくせ毛。眼鏡を着用している。小諸学園の1年B組に在籍する。
両親は事故で亡くなっており姉の七海と二人暮らし。いつ亡くなったのかは不明だが、姉がボリビアへ出張を決めた際にも一人で大丈夫だと言っているため自炊はできる模様。
祖父が使っていた8ミリカメラでの撮影が趣味。妄想癖があり、イチカの前では口や行動に出てしまっていた。湖での出来事以来、イチカの前で謎の体調不良に見舞われているが、その度に彼女に治癒してもらっている。
人間関係ではとても奥手で自己評価も低い。中学以来好きだという柑菜の想いにも気付かず鈍感な一面も見られる。イチカとの関係も深まっていく中で柑菜の想いにようやく気付き、自分の鈍感さを自覚した。その後しっかりと自分の気持ちと向き合い傷つくことや傷つけることを恐れて他人との関わりを避ける生き方をやめ、柑菜にも自分なりの答えを返しており、作中で精神的にも大きく成長している。

貴月イチカ(たかつきいちか)

CV:戸松遥
身長:163cm/体重:45kg/スリーサイズ:92-58-88/血液型:星型/誕生日:6月10日/趣味:アラッゾ(というエクササイズがあるらしい)
好きなもの:読書、ミネイル(というコーヒーに似た飲み物があるらしい)、コーヒー、チルルチョコ/嫌いなもの:ギドマゲ(というGに似た虫がいるらしい)
好きなタイプ:好きになった人がタイプ/映画の役職:主演(役者)

メインヒロイン。赤毛で海人と同じく眼鏡をしているが、翻訳機の仕込まれた眼鏡である。
自分の記憶に残っている見知らぬ風景を探し求めて地球にやってきた宇宙人で、日本の一般常識には疎い。全てコーヒー系の偏った食べ物・飲み物を昼食にする、学校帰りに釣りをする、カレーにチョコレートを大量に入れるなど度々周囲を驚かせている。
しかし生真面目なところがあり、居候が決まった際には七海より海人のことを頼まれているためしっかりと世話を焼いたり、海人が勉強を教えてくれと言った際には意外なスパルタ振りを発揮しており知的な性格も見られる。
成り行きで同居することにはなったものの、一緒に過ごすうちに次第に海人を意識していくようになり、沖縄旅行の際にはいきなり現れたかつての海人の知り合いに柑菜と共に嫉妬していたりする。後に柑菜からの叱責で海人に対する想いに気付き、彼からの告白を受け入れて恋仲となる。
最終話にて強制的に帰還することになるが、海人達の卒業後の上映映画『あの夏で待ってる』でのラストシーンで、出張帰りの七海のボリビア土産の民族衣装を身に纏った姿で締められている。

谷川柑菜(たにがわかんな)

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