すばらしき世界(2021年の映画) / Under The Open Sky

すばらしき世界(2021年の映画) / Under The Open Skyのレビュー・評価・感想

すばらしき世界(2021年の映画) / Under The Open Sky
10

社会になじむとは すばらしき世界をみて

映画「すばらしき世界」は、現代社会をありありと描きだした作品だ。
主人公は、殺人容疑の刑期を終えた元やくざだ。この主人公が、何十年もの時を経て、社会に復帰し、馴染んでこうと、もがく物語だ。主人公と、それを追いかける記者の姿には、現代社会に生きる私たちの他者への無関心さがよく表現されていた。社会に適合しようとする主人公の姿から訴えられる、社会に適合するとはどういうことなのか?というメッセージも伝わってきた。社会の中で置いていかれる人々、そして自分がその人々に関心を向けてきたか、理解しようと努めてきたか?主人公以外にも、外国人技能実習生や被災し風俗嬢になった女性など、日本社会での居場所に苦しむ人が物語の随所に登場し、物語として完結するのではなく、現実生活にまで影響を与える作品だった。
シリアスな気持ちになるとともに、生きることについて考えさせらる、感動作である。シリアスな映画であるが、主人公の姿やそれを支えてくれる人たちの姿から、勇気をもらえる作品であった。
この映画の製作エッセイ「スクリーンが待っている」も同時におすすめしたい。自分は映画観賞前に読んだが、映画を見ながらエッセイのシーンをつなぎ合わせることができた。

すばらしき世界(2021年の映画) / Under The Open Sky
10

リアルな問題が切なくもすばらしく映っている

原作小説のタイトルとなる身分帳は、刑務所に服役した本人についての記録帳の事。本来、身分帳は開示されるものでもなければ、本人が持っているものでもない。実在した主人公は、服役中に刑務所で起こした事件の裁判の証拠として自分の身分帳を目にすることができ、それを自身のノートに書き写し、出所後ある作家に、その身分帳を送る。
映画は、刑務所を出所するところから始まる。恵まれない生い立ちの主人公が、少年時代から社会の裏側で生きざるをえなかったこと。「今度ばかりは堅気ぞ」その気持ちとは裏腹に、もう一人の自分が、なじみにくい社会から再び遠ざけようとする衝動。
出所者を受け入れる人たち、反社とよばれる人たちの今、自然災害による困窮、情報過多の世で人の本性と対峙する難しさといったこと、限られた一本の映画の中で今の日本が抱えるあらゆる問題のリアリティ、またその根っこの部分をふんだんに映す作品。観る者の心に入り込み、とても深い場所で完全にひっかかるものがある。今の時代が持つ切なさを伝えつつ、タイトルは「すばらしき世界」だと、この今の世を銘打つ。忘れているものは何か、立ち止まる勇気はあるか、自分は幸せなのか、考えさせられた映画です。ぜひ、劇場へ。