ミステリー・トレイン(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ミステリートレイン』とは1989年に制作された、3組の登場人物たちのそれぞれの出来事を3部に分けたオムニバス形式の映画である。別々に進行している3つの物語が、思いもよらない形でそれぞれに影響しあっていく。
第1部は観光客のジュンとミツコがメンフィスのホテルに泊まる。第2部ではルイーザが困っているディディにホテルの相部屋利用を申し出る。第3部ではディディの元ボーイフレンドのジョニーが人を撃ってホテルに逃げてくる。こうして3組のグループが、同じホテルに集まった。

『ミステリー・トレイン』の概要

『ミステリー・トレイン』とはインデペンデント映画の巨匠とも呼ばれるジム・ジャームッシュ監督の、『パーマネント・バケーション』、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』、『ダウン・バイ・ロー』に続く長編映画の第4作目。カンヌ国際映画祭最優秀芸術貢献賞を受賞した本作は、監督の得意とするオムニバス形式を採用し、「ファー・フロム・ヨコハマ」「ア・ゴースト」「ロスト・イン・スペース」の3部で構成されている。日本から来たミツコとジュン。イタリアに帰る振替便を待つ未亡人ルイーザと彼女と相部屋することになったディディ。ディディの元恋人のジョ二ー、友人のウィルとチャーリー。ホテルのフロントとベルボーイ。同じメンフィスの同じ一夜を生きた登場人物たちが、互いを知らずに同じ場所(ホテル)に集結する様子が描かれる群像劇で、まさにホテルという場所がその映画の表現手法そのものを現している。ちなみに群像劇はグランドホテル形式とも呼ばれる映画手法で、同じ場所にそれぞれ異なる人間ドラマが集まり、物語が展開していくという表現方法を指す。

『ミステリー・トレイン』のあらすじ・ストーリー

「ファー・フロム・ヨコハマ」

メンフィスに続く電車に揺られているのは、ヨコハマから旅行に来たエルビス・プレスリー好きの明るい女の子ミツコと、カール・パーキンス好きのクールな青年ジュンであった。重そうなキャリーケースを二人で運び、メンフィス駅に到着した彼らは、現地の老人から「マッチはないか?」と聞かれる。ジュンがかっこよくライターをつけ、彼の葉巻に火を付けると、「Arigato」と一言残し、去っていく。日本語を老人が知っていたことにミツコはいちいち感動している。そして、エルビスが住んでいた邸宅グレースランドをめぐるのかカール・パーキンスが収録したことで知られるサン・スタジオに行くのか、今後の予定について揉め始める。結局ミツコに折れたジュンはグレースランド行きを認めるが、彼らが先についたのはサン・スタジオの方だった。二人はスタジオのツアーに参加することにしたのだが、聞き慣れない早口の英語に疲れてしまう。スタジオをあとにし、エルビス像(Statue of Elvis)に行き着いた彼らは一服しながらまたもヨコハマとの違いや似ている点で意見が食い違っている。

街の中心街まで歩いた二人が見つけたのは、「HOTEL」の文字。「面白そうだし、泊まっていこう」というミツコについていくジュン。フロントで拙い英語でチェックインを済ませる。ベルボーイが荷物を運ぶようにホテルマンから指示されるのだが、二人は英語が聞き取れていないので、キャリーバッグを3人で運ぶというおかしな状況になっている。部屋についた一行は、テレビのない部屋に文句が漏れたり、飾られたエルビスの絵画など部屋や水回りを物色したりするが、チップを待つベルボーイは部屋に残されたままである。チップ文化を知る由もないミツコであるが、部屋まで荷物を運んでくれたお礼を込めて、日本から持ってきたすもも(プラム)をベルボーイに手渡す。ベルボーイはそれを受け取り、鍵をミツコに渡し下へ戻っていくのであった。

ミツコは旅をするにあたって持ってきていたスケッチブックを広げ、エルビスに関する雑誌の記事や写真を切り取り、スナップとして貼り付けている。ジュンはそのよこで部屋の写真を撮っている。ミツコは昔のイスラムの王様、自由の女神、マリリン・モンローでさえもエルビスにそっくりだといい、カール・パーキンス好きのジュンは呆れている様子である。「エルビスの影響力って、思ったより偉大なんだな」というジュンもエルビスが好きなことを窺い知れる。

場面は、ホテルのフロントに移り変わり、ミツコからもらったプラムについてホテルマンとベルボーイが話し合っている。「食べるべきではない」「ああ、そうかもな」という会話がなされてはいるが、ホテルマンはどこか物珍しい日本からのプラムを食べたそうに見える。「食べるのか」「いや、やめておくよ」とベルボーイの「意思」を確認した拍子に、ホテルマンは一口にプラムを食べてしまう。「Hey, my plum!」とベルボーイが批判し、どちらも食べてみたかったんだということがわかる。

その頃部屋では、ジュンがぼーっと無表情でベッドに寄りかかっている。そこへミツコが尋ねる。「ジュン、なんであんたいつもそんなに悲しそうな顔してるの?そんなに幸せじゃないの?」「俺はいつでもハッピーだよ。だってこれが俺の顔なんだもん」とジュンは答える。そこで、ミツコはジュンの顔の目の前で変顔を始める。表情を変えないジュンに対し、ミツコは口紅を自分の唇にベタ塗りし、そのままジュンにキスをする。口の周りが赤く染まったジュンを見て、「これで少しは幸せそうに見えるわよ」と満足げにミツコは微笑む。耳にかけてあったタバコをおもむろに咥えるジュンに、ミツコは「私に火付けさせて」と、足の指でライターをはさみ、タバコに火がつけられる。「ありがとう」とジュンが言うと、「少しは楽しくなった?幸せになった?」とミツコが言った。それに対して「変わらないよ。俺は最初っからハッピーだよ」とジュンは答える。ジュンから受け取ったタバコを咥えながらミツコはまた変顔をしてみせ、立ち上がる。ジュンはそれを見て微笑むのであった。

少し時間が経過して、ミツコはお風呂から上がり、ベッドに腰掛けている。革靴を磨き終えたジュンは、窓の外を見ている。「何を見ているの?」と問うミツコにジュンはただ、「メンフィス」と答える。エルビス像の前で話したヨコハマっぽさの主張とは食い違うことを言うジュンに対して、「何を考えてるの?」とまたミツコは問う。「18か。渋いよな。ヨコハマが遠くて、メンフィスにいるってのも最高だ。」とジュンがつぶやく。ミツコはしばらく彼を見つめ、服を脱ぎ始める。二人の愛の夜が訪れる。

ことを終えた二人は、ラジオを付け、エルビスの「ブルー・ムーン」が流れる夜に溶けていくのであった。
翌朝、出発の準備をする二人は、一発の銃声を耳にする。

「ア・ゴースト」

空港で、何らかのトラブルに見舞われた一人の女性は、CAの案内で書類にサインをしている。彼女はルイーザ、ローマから来た女性である。トラブルのせいで、メンフィスに足止めを食らっている。街を歩くと、外国人であるという事実のためか、新聞売りにカモにされ、必要のない雑誌を買わされたり、ダイナーで不審な男に絡まれるなど、とにかく早く落ち着ける場所を探したい。

そこで見つけたのが、「ファー・フロム・ヨコハマ」でジュンとミツコが泊まっているホテルであった。フロントでは、お金がなくて、部屋に泊めてもらえないアメリカ人女性のディディがホテルマンと揉めている最中であった。ルイーザは、「今夜はひとりで居たくない」「話し相手がほしい」ということで、相部屋にするなら、泊めてもいいという話で決着する。

部屋についたディディは、ナチェズの友人のところに居候するということを伝える。
ここでも、テレビがないことへの文句が漏れる。

相部屋について、はじめは乗り気であったはずの二人だが、お互いの生活スタイルの違いで少しピリついているようだ。ラジオを付けないと寝れないというディディと電気をつけないと寝れないルイーザの会話から、現場の雰囲気が伝わってくる。そして、ラジオからは、エルビスの「ブルー・ムーン」が流れるのであった。この章のタイトルである「ア・ゴースト」は、メンフィスの町に伝わるエルビスの幽霊の話であり、ルイーザは最初全く信じていないただの面白い話と思っていたのだが、ホテルの部屋でエルビスの幽霊を目撃し、驚愕するのであった。朝起きたディディのよこで、ルイーザは眠れなかった様子で目を見開いている。

一方フロントでは、朝を迎え、ラジオでは昨夜の事件を伝えるニュースが流れている。ホテルマンとベルボーイは、まだ夢の中のようだ。ふたりとも座ったまま寝落ちした格好でいる。

そして、一発の銃声を彼女らも耳にするのであった。
ルイーザは壁にかかったエルビスの絵画を眺め、彼女の指輪をとり財布にしまうのであった。
彼女の巻き込まれていたトラブルは、夫の死。
そして、ダイナーでの男は、ナンパのような手口でエルビスの幽霊の話でお金を取ろうとしてきた。
エルビスの幽霊を見てしまった彼女が、何かを決意したような瞬間であった。

「ロスト・イン・スペース」

「ア・ゴースト」の登場人物であるディディの元恋人である、ジョ二ーは会社をクビになり、ディディにも見限られ、酒場で酔い嘆いている。カール・パーキンス好きのジョニーは、「ファー・フロム・ヨコハマ」のジュンと同じヘアスタイルで髪を固めているが、周りからはエルビスというあだ名で呼ばれることをよく思っていないようだ。黒人のアールが経営するバーでは、黒人がマジョリティで、英国人差別をしてくるバーの黒人客は、ジョニーを侮辱してエルビスと呼ぶ。そんなジョニーは、銃を隠し持っており、今にも面倒を起こしそうであるほど酔っ払っている。ジョニーを見かね、そばにいたエドは電話でジョニーの友人である黒人のウィルと、ディディの兄で、ジョニーの義理の兄である白人のチャーリーをバーに呼ぶ。

バーから連れて帰られ、ウィルのトラックでドライブする3人は、少し先の酒場に到着する。
そこで、店員に黒人に対する侮蔑的な態度を取られたウィルをかばうジョニーは、店員に銃を向け脅すつもりが、理性が効かなくなったジョニーは引き金を引いてしまう。車でその場から逃げた一行は、焦りながらも徐々に落ち着き、密室でのトークが始まる。ディディが出ていったこと、そして兄のチャーリーにも伝えてなかったこと、そして彼女への悪口へと発展していく。

酒屋で奪った酒を飲みまわしながら、宛もなく車を走らせるウィルに対して、チャーリーはどうするのかと尋ねる。解決策が見つからないまま、ラジオを付けるとエルビスの「ブルー・ムーン」が流れる。

場面はホテルのフロントに移り、ホテルマンとベルボーイは制服の話や、ラジオの話題に関する話など、暇そうにしている。

そこに、一行が到着し、ウィルが匿ってほしいと頼み込む。そして、ホテルマンが音をたてないことと、女房には言わないことを条件に一番汚い22号室へと彼らを通す。

とりあえず、隠れる場所を確保した三人は、ベッドに腰掛けるが、テレビがないだとか、部屋に飾られたエルビスの絵画についてここでも不平を漏らす。

チャーリーが思い出したように、ウィルのフルネームをつぶやく。「ウィル・ロビンソン」はアメリカのTVショーの『宇宙家族ロビンソン(ロスト・イン・スペース)』だと指摘する。最高の番組だったというチャーリーに対して、ウィルはつまらなかったといい、英国出身のジョニーに関しては、イギリスではやってなかっただのと言われる始末である。ウィルは、この二人の白人と一夜をともにしないと行けない状況こそが「ロスト・イン・スペース」だとうまいことをいっている。

そして、フロントへと場面が移行すると、「ア・ゴースト」では詳細が語られなかったラジオが鮮明に聞こえるのである。昨晩のジョニーが起こした酒屋での銃発砲に関するニュースである。白人二人と黒人ひとりのグループが銃を持った凶悪犯として報道されている。

朝起きたジョニーは、実はディディとは結婚していなかったことを告白すると、義理の弟でもないジョニーのために事件に巻き込まれたことを嘆き、その声で、ウィルが起きる。

そして、銃を始末しようと提案するウィルの横で、自分の行いを悔いたジョニーが自殺を図ろうと、銃を頭にかざす。それを止めようとしたチャーリーの足を打ってしまう。

これが、ジュン、ミツコ、ルイーザ、ディディが聞いた銃声だったのだ。

交わらない彼ら

電車に乗り込んだミツコとジュンは、グレースランドに行く予定を楽しそうに話している。
そこへ、ナチェズに向かうディディが現れ、この電車でいいのかを彼らに尋ねる。
ミツコは、「ナチェズ」を「マッチ」と聞き間違え、はじめの駅と同様にライターで火を差し出すのだが、ディディは諦めて、なんでもない、と言いながら彼らをあとにする。

また、ルイーザは空港で振替便へと急いでいる。

一方、ジョニー、ウィル、チャーリーの三人組は、ベルボーイに銃を見られたこともあり、ホテルから車へと移動しているのだが、パトカーのサイレンを聞き、急いで走り出す。彼らが去った道を、垂直に交差するようにパトカーは走り去っていく。そこへ、ミツコ、ジュン、ディディを乗せた電車が走ってくる。

彼らは、いっとき同じ空間を共有していたのにも関わらず、お互いをお互いが知ることもなく、それぞれの人生を歩んでいく様子が描かれるのである。

『ミステリー・トレイン』の登場人物・キャラクター

ファー・フロム・ヨコハマの登場人物

ジュン(演:永瀬正敏)

画像左がジュン

日本から観光に訪れたカール・パーキンス好きの青年。

ミツコ(演:工藤夕貴)

画像右がミツコ

日本から観光に来たエルヴィス・プレスリー好きの女性。チップという文化を知らず、荷物を運んでくれたボーイにプラムを渡す。

メンフィス駅の老人(演:ルーファス・トーマス)

画像左の男性がメンフィス駅の老人。

メンフィス駅にいた老人。ジュンに葉巻の火をつけてもらい、日本語でお礼を言った。

ア・ゴーストの登場人物

ルイーザ(演:ニコレッタ・ブラスキ)

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