あの夏のルカ(ピクサー映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『あの夏のルカ』とは、2021年に公開されたピクサー・アニメーション・スタジオ製作の3Dアニメーション映画で、少年たちのひと夏の冒険を描いたファンタジー・アドベンチャーである。シー・モンスターの正体を隠して人間の世界に飛び込んだ少年ルカと親友アルベルトは、自由を手に入れるため人間の町のトライアスロンレースで優勝して賞金を獲得しようと奮闘する。色彩鮮やかでノスタルジックなイタリアの港町を舞台に、友情と好奇心の間に揺れ動く子ども達の心の変化が見どころ。

『あの夏のルカ』の概要

『あの夏のルカ』(原題:Luca)とは、2021年に公開された少年達のひと夏の冒険を描いた、ピクサー・アニメーション・スタジオ製作3Dアニメーション映画である。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、本作の劇場公開は断念された。このような背景から本作は2021年6月18日に、ディスニー提供のサブスクリプションサービスであるDisney+にて日米同時公開されている。監督はイタリア出身のエンリコ・カサローザ。2002年にピクサーに入社して以来ストーリーアーティストとして活躍しており、『アーロと少年』(2016年公開)や『リメンバー・ミー』(2017年公開)も手掛けている。監督として制作する長編作品は、本作が初となる。

夏の北イタリアの港町を舞台にした、鮮やかでみずみずしい色彩表現と、子ども時代の心象を呼び起こすノスタルジックな空気感が魅力だ。「子ども時代の夏」を題材に、友情や家族愛、新しい世界への好奇心から、種族間の対立、アイデンティティのカミングアウトまでもテーマに孕んだ良作となっている。

ルカは海中では魚人、陸では人間の姿に変身するシー・モンスターの少年である。両親の言いつけを守り危険な陸から離れて暮らしていたが、陸で自由に暮らす少し年上のシー・モンスター、アルベルトと知り合ってその生活は一変する。すぐに親友となったルカとアルベルトは、人間のレースに出て賞金を勝ち取り、ふたりで自由を手に入れることを決意する。ふたりは港町で知り合った人間の少女ジュリアの協力を得て、レース優勝のために練習に励む。しかしルカの両親、よそ者をいじめるエルコレ、シー・モンスターを排除しようとする町人達などが少しずつふたりを追い詰めるのだった。

本作は2022年にはアカデミー賞最優秀アニメーション部門、アニー賞、英国アカデミー賞ゴールデングローブ賞にノミネートされ、ハリウッド批評家協会最優秀作品賞を受賞している。

また後日談のショートストーリー作品『アルベルトの手紙』が2021年にDisney+にて公開されている。不器用なアルベルトと寡黙なマッシモの親子のような関係が深まっていく様子が描かれている。

『あの夏のルカ』のあらすじ・ストーリー

アルベルトとの出会いと憧れのベスパ

北イタリアの美しい港町・ポルトロッソにはシー・モンスターが出没するという伝説があり、今でも人型の不気味なモンスターを海中に見た目撃者が後を絶たない。シー・モンスター達は確かに存在する。彼らは海底で社会を形成して、穏やかに暮らしているのだった。シー・モンスターは陸に上がると人間の姿に変身する特性を持っているが、人間を危険視し人間には決して姿を見せないよう隠れて生きている。子どものシー・モンスターであるルカ・パグーロは家畜である魚の群れの世話係だ。陸のモンスター・人間を恐れながらも、人間達が暮らす陸の世界に憧れを抱いている。ルカの母、ダニエラ・パグーロは大切なルカを守るために人間と陸の世界の危険さをよく言い聞かせているのだった。そんなある日ルカが出会ったのは、人間の落とし物を収集し陸で人間に変身して暮らすシー・モンスターの不良少年、アルベルト・スコルファノだった。

アルベルトを追いかけて初めて人間に変身したルカは、その感覚が忘れられず、頻繁にアルベルトを訪ねるようになる。小さな島の壊れた灯台で、出稼ぎで家を空けがちな父と暮らしているというアルベルトは、得意そうにルカに人間や地上の世界について教えてくれる。夏の日差し、高い空、植物、重力など、ルカにとってはどれも新鮮だった。特にルカが心を惹かれたのは、乗れば世界中どこにでも行ける人間の乗り物「ベスパ」だった。ベスパとはイタリア産のオートバイである。ふたりは人間の落とし物をかき集めて、ベスパもどきを作る遊びに夢中になる。エンジンの存在も知らないふたりだが、試行錯誤を重ねてベスパもどきをたくさん作ってはそれに乗り、坂を滑り落ちて遊んだのだった。やがてふたりは本物のベスパに乗って一緒に世界中を周るという夢を抱くようになり、人間への好奇心で結ばれたふたりの友情はますます深まるのだった。楽天的で大胆な兄貴分のアルベルトは、頭でっかちで心配性なルカの臆病な性格を、別の人格に見立ててブルーノと呼んだ。それからというもの「シレンツィオ・ブルーノ(ブルーノは黙ってろ)」はふたりの合言葉になった。

そのころルカが隠れて地上に行っていることが両親にバレてしまう。陸の危険さがわかっていないルカを陸から引き離すため、両親はこの夏の間、ルカを深海に暮らす父の兄・ウーゴ伯父さんに預けることを決意する。ルカがそのことをアルベルトに相談に行くと、アルベルトはふたりで人間の町に逃げ込むことを提案する。人間に変身して町でベスパを手に入れ、どこにでも行ける自由の身になろうというのだ。ルカはこの提案にのり、ふたりはついに人間の町に足を踏み入れた。

ジュリアとの出会いとポルトロッソカップ

ルカは港町ポルトロッソで初めて人間の暮らしに触れて感動する一方で、町の彫刻からシー・モンスターを排斥する人間の思考を感じ取って不安を抱く。そこへ町のお騒がせ者エルコレ・ヴィスコンティがピカピカのベスパに乗って現れる。エルコレは鼻につくいじめっ子だった。自慢のベスパにボールをぶつけてしまったルカに制裁を与えようと、広場の噴水にルカの頭を突っ込もうとしてくる。水に濡れればシー・モンスターに戻ってしまうため、ルカが必死に抵抗していると、ジュリア・マルコヴァルドが止めに入った。
ジュリアは夏休みの間だけ、母と暮らすジェノバから父が暮らすこの港町にやってくる漁師の娘である。勝ち気で優しい性格だが、町のレース、ポルトロッソカップで絶対勝者エルコレに負け続けているせいで負け犬呼ばわりされているのだった。ポルトロッソカップはポルトロッソのオリジナルレースだ。3人チームのトライアスロンで、水泳・自転車・パスタ食べ競争の3つの競技をクリアしなければならない。勝者には賞金が出る。その賞金でオンボロのベスパを買えると知ったルカとアルベルトは、打倒エルコレに燃えるジュリアとチームを組むことにした。

ジュリアは参加費を出してもらうため、ルカとアルベルトを屈強な漁師にしてシー・モンスターのハンターである父、マッシモ・マルコヴァルドに紹介する。マッシモはジュリアが「レースにむきになり過ぎている」と参加費を出すことを渋るが、ジュリアが魚の配達を、ルカとアルベルトが漁を手伝うという約束で了承した。ジュリアに家出少年だと思われているルカとアルベルトは、ジュリアのツリーハウスで寝泊まりすることになった。

そのころルカの両親も、ルカを探しに町に忍び込んでいた。しかし人間になったルカの姿を知らない両親は、ルカ探しに手間取っていた。

バラバラになるルカとアルベルトの夢

ルカとアルベルトは魚の居場所がよくわかっているため漁の名人だった。大量の魚を獲って、無事マッシモに参加費を出してもらえることになった。レースではジュリアが水泳、ルカが自転車、アルベルトがパスタ食べ競争を担当することになり、それぞれ練習を重ねることになる。ジュリアは水泳が苦手で、ルカは自転車に乗ったこともなく、アルベルトはフォークを握ったこともない。ルカ達のチームは負け犬チームと呼ばれるようになった。

そんなある夜、ルカはジュリアに星の存在を教えてもらう。アルベルトから空で光っているのは、空で眠るいわしだと教わっていたルカにとっては、衝撃の事実であった。ジュリアが学校で学んだという天体の知識の面白さに感動したルカは、自分も学校で学んでみたいと思うようになった。一方でアルベルトは、ジュリアがルカを遠くの世界に連れて行ってしまいそうで不安を抱くようになる。そのころからルカとふたりで自由を手に入れたいアルベルトと、人間の世界にもっと踏み込みたいルカの考えが噛み合わなくなり、次第に対立するようになっていく。レースを目前に控えそれぞれ競技の練習は順調に進んでいたが、ルカとアルベルトを取り巻く状況は次第に厳しくなっていく。それはエルコレが懸賞金目的でシー・モンスターを探しはじめ、ルカの両親が町の子ども達を手当たり次第濡らしてルカを探し出そうと奔走しているためだった。

その日もルカ、アルベルト、ジュリアは3人で自転車の練習をしていた。ジュリアはその時通りかかった汽車を指差して、あれはジュリアが普段通っているジェノバの学校に行く汽車だと説明する。これにアルベルトは過剰に反応した。「わざわざつまらないところに行く汽車を説明するな」と激昂したアルベルトは、ルカが乗っていた自転車に無理やり二人乗りをして、危険な下り坂のコースを猛スピードで駆け抜けた。
自転車を制御できなくなったふたりはそのまま海に投げ出される。海中でシー・モンスターに戻ったふたりは、危うくその姿をジュリアやエルコレに見られそうになった。これをきっかけにお互いへの不満が爆発したルカとアルベルトは、海から上がった砂浜で取っ組み合いの喧嘩をはじめた。

海に落ちたふたりを心配して駆けつけたジュリアにアルベルトは「シー・モンスターでも学校に行けるのか」と切り出す。人間にシー・モンスターが受け入れられないことを証明したいアルベルトは、ジュリアの目の前で海に入りシー・モンスターに戻ってみせた。驚きおびえるジュリアをみたルカは、ジュリアと並んでアルベルトを指差し「シー・モンスターだ!」と叫んだ。ルカは「アルベルトはシー・モンスターで、自分は人間だ」とアピールしたかったのだった。この態度にショックを受けたアルベルトは、エルコレ達が声を聞いて集まって来たこともあり、何も言わず悲しげに海の中に消えていった。

ルカの決意

ジュリアの家に戻ったルカは、ジュリアに水をかけられ自分もシー・モンスターだと知られてしまう。ルカはふたりでもレースに出たいとジュリアにお願いするが、ジュリアにはシー・モンスターであることを周囲に知られるリスクを冒してまでレースに出る意味、ベスパを手に入れて自由を手に入れたい心境を理解してもらえない。結局レースに一緒に出るという約束は取り付けられなかった。

ルカはアルベルトに謝りたいと、アルベルトが住む古い灯台にやって来た。そこでルカの謝罪を受け入れられないアルベルトから、アルベルトの父はもう長い間消息不明であることが明かされる。
アルベルトはひとりぼっちになることに恐怖心を感じており、ルカにも置いていかれるのではないかと恐れていたのだった。アルベルトはルカとの友情もすでに終わったものと諦め、ルカと友達になったことから間違いだったと語る。しかしルカはアルベルトとの友情をやり直したいと考えていた。そのためにはレースでの優勝・ベスパの獲得・ふたりで自由に世界を周ることが必要だと考えたルカはひとり意欲を燃やす。
塞ぎ込むアルベルトに、自分ひとりでなんとかすると告げたルカは人間の港町に戻っていった。

ポルトロッソカップ当日

ついにポルトロッソカップのレース当日を迎えた。ルカとジュリアはそれぞれ個人で出場することになった。ジュリアは、水に濡れればシー・モンスターの姿になってしまうルカの出場を心配したが、ルカは意地になってジュリアの話を聞かず出場する。ルカは水泳部門では全身を覆う潜水服で泳ぎ切り、パスタ大食いでもジュリアの助けでフォークを正しく使いこなし、正体を知られず健闘してみせた。そしてついにルカは最後の自転車レースで先頭に躍り出た。

しかし急な雨が降り出し、体を濡らせないルカは逃げ込んだ民家の軒下から動けなくなってしまう。そこへ大きなパラソルを傘代わりにさしたアルベルトが、ルカを助けにやって来た。しかしアルベルトはエルコレに蹴飛ばされたために、パラソルを落とし雨に濡れ、レースの応援の人混みの中で正体を晒してしまう。ルカは助けに入ろうとするも、アルベルトに静止され動けない。アルベルトはついにエルコレに漁網を投げつけられ、捕まってしまう。それを見たルカはアルベルトを助けるために自転車を漕ぎ出し、雨の中に飛び出した。ルカは自身もシー・モンスターの姿になりながら、アルベルトを助け、自転車の後ろに乗せて再びコースを走り出した。

シー・モンスターのルカとアルベルト

自転車で逃げ出したルカとアルベルトの後ろを、モリを持ったエルコレ、ふたりを助けたいジュリアがそれぞれ自転車で追いかける。自転車レースのコースに沿いながら、ルカとアルベルトは海に向かって逃げていく。ふたりの前に回り込み、モリを振り上げたエルコレを見たジュリアはエルコレに自転車ごと体当たりした。ジュリアとエルコレは転倒し、レースは続行不可能となった。ゴール近く、海の目前でのことだった。

あと少しで海に着くふたりだったが、地面に体を打ち付けたジュリアを心配し、自転車を降りてジュリアのもとに引き返す。大丈夫だというジュリアを抱えて歩くふたりのシー・モンスターを、町の人々が取り囲んだ。
シー・モンスター・ハンターとして先頭に出たマッシモは、「ふたりはルカとアルベルトだ」と言ってモリを手放してみせ、町人達もその態度に従った。モリや漁網を持っていた男性達は撤退し、警官や女性たちは懸賞金のちらしを破り捨てた。なかにはさしていた傘を下ろし、雨に濡れてシー・モンスターの正体を見せる町人までいた。
シー・モンスターの捕獲を諦められないエルコレは子分達にモリを持ってこいと命令するが、その横暴な態度からとうとう見限られ、広場の噴水に投げ捨てられてしまった。
逆にルカ達はジュリアを助けに行く前にルール通りゴールラインを超えていたとして、レースの優勝者として認められた。ルカとアルベルトは優勝賞金を受け取り、ついに夢にまで見たオンボロのべスパを手に入れたのだった。

その日の夜はジュリアの家で、マッシモのパスタが振る舞われるお祝いのパーティーが開かれた。ルカの家族もシー・モンスターの姿のまま招かれ暖かな時間を過ごした。シー・モンスターの姿のままジュリア達と楽しく過ごすルカを見て、ダニエラは「今日のルカはうまくいったが、この先も大丈夫とは限らない」と不安をみせるが、おばあちゃんは「ルカは自分を受け入れてくれる居場所をきちんと見つけられる」と諭したのだった。

ルカの旅立ち

夏休みが終わり、ジュリアは汽車に乗ってジェノバに帰ることになった。ルカとアルベルトは見送りのため駅のホームまでやってくる。ジュリアが汽車に乗り込むのを見て、学校で学ぶことへの憧れを捨てきれないルカは名残惜しそうな表情をみせる。
それでも「ベスパの修理を始めよう」と言うルカに、ジュリアと目配せしたアルベルトが「ベスパは売ってしまった」と告げ、代わりにジェノバ行きの汽車のチケットをルカに差し出した。アルベルトはベスパを売ったお金で、ルカが学校に行けるよう準備していたのだ。すでにルカの家族とジュリアの母の説得が済んでおり、ルカがジェノバにあるジュリアの家から、ジュリアの母に面倒を見てもらいながら学校に通えるよう手筈が整っているのだった。

見送りにやってきたルカの家族も心配と別れの寂しさを滲ませながらも、ルカを送り出してくれた。ルカはアルベルトがひとりになって寂しくないか心配したが、アルベルトはよく気にかけ、必要としてくれるマッシモと一緒に暮らすという。
安心したルカはアルベルトと別れの抱擁をして汽車に乗り込んだ。
汽車が走りだすと雨がルカとアルベルトを濡らした。アルベルトはかまわず大声で「行け、ルカ、行け!」とルカにエールを送るのだった。こうしてふたりのシー・モンスターはポルトロッソとジェノバに離れ離れになったが、それぞれの居場所で仲間に囲まれながら、ふたりの友情は続くのだった。

『あの夏のルカ』の登場人物・キャラクター

主人公

ルカ・パグーロ

CV:ジェイコブ・トレンブレイ
日本語版吹替:阿部カノン

本作の主人公。
13歳のシー・モンスターの少年。危険な陸に近づかない、という母の教えを守る素直で臆病な性格の「良い子」で、毎日家畜の魚達の面倒を見ていた。しかし親友アルベルトと出会ってからは陸の世界と人間への興味を抑えきれず、頻繁に陸に通うようになる。知的好奇心が旺盛で、ジュリアから学校の話を聞いてからは、学校で学んでみたいと思うようになる。

アルベルト・スコルファノ

peony
peony
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