ゼロから始める魔法の書(ゼロの書)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ゼロから始める魔法の書』とは、電撃文庫より出版された、虎走かける著・しずまよしのり絵のライトノベル、およびそれを原作としたマンガ、アニメ、ゲームである。「獣堕ち」と呼ばれる半人半獣の主人公「傭兵」と、世間知らずの魔女「ゼロ」が、世界を滅ぼすほどの力を秘めた魔法の指南書「ゼロの書」を探す物語。1~10巻までの本編と、後日談である短編集を合わせた全11巻まで刊行されている。2018年より講談社ラノベ文庫から続編である『魔法使い黎明期』のシリーズが開始された。

『ゼロから始める魔法の書』の概要

『ゼロから始める魔法の書』とは、電撃文庫より出版された、虎走かける(こばしり かける)著・しずまよしのり絵のライトノベル、およびそれを原作としたマンガ、アニメ、ゲームといった作品群である。2013年に行われた第20回電撃小説大賞にて、最優秀賞である「大賞」に選ばれた作品。本編は終始、主人公である獣の「傭兵」視点で描かれており、地の文はいわゆる一人称視点である。2014年12月発売の『電撃マオウ』2015年2月号より、いわさきたかしによるマンガ版の連載が始まり、同誌の2015年12月号からは、安岳によるデフォルメされたキャラクター達のスピンオフマンガ『ゼロから始める魔法の書 なの』が連載された。マンガ版は全6巻、スピンオフ版は全2巻まで刊行されており、いずれも完結している。2017年春よりテレビアニメ『ゼロから始める魔法の書』が放送を開始し、2017年初夏よりTVアニメ版を原作としたソーシャルゲームのサービスが開始した。2018年2月にサービス終了。
本編完結後、自作小説投稿サイト「小説家になろう」にて本編の後日談にあたる「魔女と野獣の極めて普通な村づくり」を連載。物語終了後のゼロと傭兵が暮らす村の復興に焦点を当てた作品となっている。また10巻、および11巻のあとがきにて、この村を舞台とした続編を書きたいと宣言しており、その後2018年8月からは講談社ラノベ文庫にレーベルを移し、魔法が比較的一般に広がった世界を舞台にした『魔法使い黎明期』のシリーズを開始。本作には『ゼロから始める魔法の書』の登場人物も出てくるが、本作だけでも楽しめるように配慮がなされている。
魔女がいて、魔術があり、しかし魔法を知らない世界を舞台に、「獣堕ち」と呼ばれる半人半獣の主人公「傭兵」と、世間知らずの魔女「ゼロ」が、使い方を間違えれば世界を滅ぼしかねないほどの力を持った魔法の指南書「ゼロの書」を巡る冒険を繰り広げるグリモア・ファンタジー。

『ゼロから始める魔法の書』のあらすじ・ストーリー

ゼロの書

獣堕ちと呼ばれる半人半獣の傭兵は、目的地であるウェニアス王国に向かう途中の森の中で、突如として光の矢を放つ魔術を使うはぐれの魔女に襲われる。魔女を毛嫌いする傭兵は、必死に逃げ出すが、その道中運悪く足を滑らせ、崖の下へと落ちてしまう。たまたま崖下にいた旅人の手を引き、傭兵は魔女からの逃亡を続ける。

魔術に造詣が深い旅人は、襲撃者が次々と手を休めずに攻撃してくることから、使用しているのは「魔術」ではなく「魔法」であると見抜く。傭兵に抱えられた旅人が「降ろせ」と言うと、特に旅人を連れている理由のない傭兵はすぐに手を離した。しかしその直後、足元の地面が動き傭兵は転んでしまう。振り向くと旅人が巨大な土の箱の中に襲撃者を閉じ込めていた。
傭兵は魔女だと名乗る旅人からも逃げ出し、夜の帳が下り始めたところで夕食の準備を始めた。旅人から十分に距離を取っていたはずだったのに、ふと傭兵が視線を上げると目の前では旅人がスープを口に運んでいる。傭兵は思わず驚きの声を上げた。旅人は「ゼロ」と名乗り、盗まれた自分の本を探していることを明かした。

ゼロが書いたという本「ゼロの書」には、「魔術」を応用した全く新しい技術、「魔法」についての理論とそのやり方が詳しく書かれているのだという。ゼロは魔法を使う魔女が世界を敵に回すことを懸念して、ゼロの書を回収しようとしているのだ。
ゼロは傭兵に手伝ってほしいと依頼する。魔女が嫌いな傭兵に断られると、ゼロは「手伝ってくれれば傭兵を人間に戻す」という交換条件を持ち掛けた。傭兵のような獣堕ちは、世間一般には前世の罪の結果から獣の姿で生まれたのだと信じられているが、実際のところは先祖の魔女が行った魔術の代償が子孫に跳ね返った結果なのだという。魔術はゼロの使う「ある魔法」で打ち消すことができると聞いた傭兵は、忌々しいこの体から解放されるチャンスかもしれないと考えて承諾した。

一夜明け、土の箱から抜け出したはぐれ魔女が2人の前に現れた。はぐれ魔女は魔法を行使しようとするが、ゼロが「却下」と告げたことでキャンセルされた。この魔法は魔法と魔術を打ち消すために編み出されたゼロのみが使える魔法で、魔法を悪用する者が現れた場合の安全策だった。
2人は魔法が使えなくなって動揺するはぐれ魔女を拘束する。はぐれ魔女の名前はアルバス。アルバスは「ゼロの魔術師団」と呼ばれる組織で魔法を習った駆け出しの魔女だった。ゼロの魔術師団は「あの方」と呼ばれる存在が統率しており、ゼロの書で魔法を広めているという。アルバスはゼロの書が盗品であると知らされると、ゼロの魔術師団に対する信頼が揺らぎ、傭兵たちを魔術師団のアジトへ案内する。

3人が魔術師団のアジトについた時には、すでに何者かの襲撃を受けた後で、構成員が死亡しゼロの書も消えていた。3人はアジトに仕掛けられていた大規模な空間転移の魔法により、ウェニアス王国の王城へと飛ばされてしまう。そこにはゼロの実兄「十三番」がいた。ゼロの書が盗み出された際に真っ先に外の世界へ探しに出た人物とされていたが、実はゼロの書を持ち出し、「あの方」としてゼロの魔術師団を作り上げた張本人であった。その目的はウェニアス王国を魔女が住みやすい理想の世界に作り替えること。ゼロの魔術師団という「悪い魔女」たちを「正義の魔女」が倒すことで、魔女の地位を上げようというのだ。その根底にあったのは、妹ゼロへの愛情であった。

十三番は魔女の理想の世界を作るため、ゼロとアルバスに協力を持ち掛ける。しかし2人はそれを拒んだ。特にゼロに「そんな世界は望んでいない」と拒まれたことにショックを受ける十三番。そんなとき、ウェニアス王国中の魔女たちが大規模な反乱を起こす。これをゼロは、召喚した悪魔を一時的に傭兵に憑依させ、悪魔にウェニアス王国という土地そのものに「却下」を行使させることで収めた。
大きな魔法を使用した影響でしばらくの間、ゼロは簡単な魔法しか使えなくなってしまった。ゼロは傭兵を連れ、国を出ることになる。

アクディオスの聖女

王国を出たゼロと傭兵は、人々を奇跡の力で癒す聖女がいるとされる海の都「アクディオス」を目指す。道中で出会った少年テオによれば、聖女が無償で人々を癒す影響で医者が国外へ出ており、医者不足が深刻なのだという。また教会から送られてきた異端審問組織「女神の浄火(デア・イグニス)」の一人が、聖女のことを審査していると語った。
3人は森の中で盗賊に襲われている2人の女性を見つける。女性は件の聖女・フェーリアとその侍女サナレであった。3人が彼女たちを助けようとしたとき、突如として現れたデア・イグニスの神父「隠匿」に盗賊の仲間と間違われて襲われる。すぐに誤解は解けたものの、獣堕ちの傭兵に対する態度は悪いままだった。

港町イデアベルナについた一行は領主の屋敷へと案内される。そこでテオは働きを認められ、屋敷で雇われることになるが、その条件として右手に聖女の力を享受することを認める焼き印を押されてしまう。
一方傭兵は晩餐中、死臭がしていることに気づいて屋敷の裏に行くと池に大量の死体が沈んでいるのを発見する。傭兵から話を聞いたゼロは、フェーリアが使っている奇跡の力の正体が、他者の病や怪我を印が刻まれた者に分散させる「犠牲印」と呼ばれる魔法であると見抜く。

しかし屋敷ではゼロと傭兵がフェーリアを殺そうとしているというデマが広められており、2人は逃げることに。町の出入口で待ち構えていた神父との戦闘中に、傭兵は警備隊に砲撃されてつり橋から神父ともども落下してしまった。
傭兵は瀕死の重傷を負った神父を抱え、崖を這い上がり、待っていたゼロに治療を頼んだ。神父を休ませるために森に入った先で、一行は聖女を襲っていた盗賊団のアジトに到着する。盗賊団の長、獣堕ちのカルは3人を快く迎え入れた。
フェーリアの幼馴染だというカルは、彼女を止めるために盗賊団を率いているのだという。
傭兵とゼロは回復した神父と、カルの協力を得てイデアベルナに舞い戻る。屋敷についた彼らが目撃したのはテオがフェーリアにナイフを突き立てようとしている場面だった。テオはもともと両親の死の遠因となった聖女を恨んでいた。復讐心はゼロと傭兵のおかげで一時は収まっていたが、2人が死亡したかに見えたため再燃する事になったのだ。
傭兵が割って入ろうとしたがテオがフェーリアにナイフを突き刺す方が早かった。しかし焼き印の効果でフェーリアではなくテオに刺し傷ができてしまう。すかさずゼロが治癒魔法をかけるが間に合わず、テオは静かに息を引き取った。

魔力の動きを感知したゼロたちが屋敷の地下へ向かうと、聖女の侍女であるサナレがいた。何も知らない聖女を利用していた黒幕は彼女であり、彼女は死霊魔法という新しい魔法でアクディオス全域で死者が生者を襲うという地獄絵図を作り出して逃亡した。
そんな中、カルは死者に襲われそうになっているフェーリアを助けて致命傷を負う。フェーリアがカルを救おうと無理やり行使した回復魔法はアクディオス全域を覆い、死者が静まり返った。しかしその代償は大きく、彼女は視力を失い歩けない体となってしまう。事の顛末を聞いたフェーリアは死を望むが、ゼロや神父から叱責を受け、聖女として生きていく決意をする。一方の傭兵は、テオの形見のナイフを持ち、ゼロとともに次なる地へと向かう。

黒竜島の魔姫

ゼロと傭兵は「海運国家テルゼム」へ向かう航海中、竜に襲われて海へと投げ出される。傭兵が目を覚ますと、アムニルという勝気な王女と騎士ゴーダにより牢屋に入れられていた。彼女たちが言うには、ここは竜の支配する「黒竜島」にあるノーディス王国とのこと。傭兵は自力で王国にたどり着いたゼロと合流し、アムニルの魔法の師匠である星噺の魔術師アルゲントゥムのもとへ向かう。
2人はアルゲントゥムから、黒竜島はサナレによって世界中に魔法が広がったらどうなるのかという実験に使われたのだと知る。2人がアルゲントゥムの元から去った後、彼は教会の命を受けてやってきた神父「隠匿」によって殺された。

ゼロと傭兵はアムニルからこの黒竜島の名前の由来となっている竜の退治を依頼される。竜がいる以上島から出られない2人はこれを了承し、ノーディスの騎士団らと共に討伐作戦に参加する。ゼロ、傭兵、ゴーダにより竜の討伐に成功したものの、作戦に乗じてサナレが現れ、アムニルの体を乗っ取ってしまう。彼女はアルゲントゥムが持っていたゼロの書の写本を手に入れ、どこかへ消え去った。
アムニルが不在の間、竜の亡骸から現れた子竜に認められたゴーダが王となることに決まった。ゼロと傭兵は本来の目的地である海運国家テルゼムへと向かうが、ゼロが無害な魔女なのか裁定しようと神父「隠匿」も同行することになった。

楽園の墓守

テルゼムについた一行。しかしゼロの髪が銀色であるという理由で、どこの宿屋からも宿泊を拒否される。途方に暮れる一行に声をかけてきたのはネズミの獣堕ちリーリを養子にとるクレド・リザの夫婦だった。
彼らから最近ゼロと名乗る銀髪の魔女が現れて、「背徳」と呼ばれる「女神の浄火(デア・イグニス)」の裁定官が銀髪の女性や匿った人物を片っ端から尋問にかけているという話を聞く。ゼロたちは最初に銀髪の魔女が現れた村へ行くことに決めた。

翌朝、件の村に赴くと大量の死体が転がっていた。これは「背徳」が行った尋問の結果であるらしい。ゼロたちは現れた教会騎士団に従い、ルートラ大聖堂という場所を訪れた。一行は「背徳」の急襲を受け、傭兵が大怪我を負いゼロと神父が連れ去られてしまう。
またクレドとリザの夫婦のもとにも騎士がやってきて、2人を連れ去っていく。その様子を物陰から見ていたリーリは、誰かを守る自分になりたいと決意して家を飛び出した。多くのネズミを従えるという能力でリーリは傭兵のもとに辿り着く。そのまま2人で「背徳」を探し始める。

リーリの能力によって使われていない神殿にやってきた2人は、拷問を受けている神父を見つける。助け出された神父曰く、ゼロの名乗る銀髪の魔女の噂は「背徳」が流した嘘であり、ゼロの書の写本の作者を誘き出そうとしているのだそう。
傭兵たちはゼロが監禁される宝物庫で「背徳」と対決。神父が「背徳」の首を切り落として勝利した。
一連の事件は「背徳」の暴走として処理された。ゼロは教会が保有するゼロの書の写本を燃やすことを条件に、騎士の前で傭兵の怪我を魔法で治すところを見せた。

ゼロと傭兵、神父が旅立とうとしたところでリーリが同行したいと言い出す。クレドとリザの後押しもあり、リーリも仲間に加わった。

詠月の魔女

4人になった一行はゼロが生まれ育った穴蔵へと向かったが、そこに足を踏み入れた瞬間に転移魔法が作動してウェニアス王国へと飛ばされてしまう。十三番が何らかの意図をもって自分たちを呼んだのだと考えたゼロたちは王都へ向かう。
道中ではアルバスに仕えるオオカミの獣堕ちホルデムと出会う。アルバスは十三番の協力のもとウェニアス王国を魔法国家に変え、ゼロから授けられた「許可」の魔法を使って魔法を使うための免許を作っているらしい。さらに魔法により人間に戻してもらおうと多くの獣堕ちが集まっているのだという。

一行が王都へ向かっていると、突然赤毛の魔女から襲撃を受ける。魔女はゼロに「不完全な数字(セストゥム)」という組織について話があると言い、乱入してきた十三番とともに姿を消した。

王都では再会したアルバスの勧めで舞踏会に参加することになった。その途中、蛇の獣堕ちが乱入して参加者たちを襲い始める。傭兵がゼロの魔法がかかった剣で襲撃者の心臓をつぶすと、蛇の獣堕ちは人間の女性の姿に戻り絶命した。
獣堕ちは城の地下牢から逃げた者だった。地下牢には人間に戻る順番待ちの獣堕ちが鎖につながれている。アルバスは「獣堕ち特有の食人衝動が抑えられず、人を襲う危険があるから」と言うが、ゼロは見損なったと告げて傭兵、神父、リーリとともに城を後にした。
1人残されたアルバスは祖母ソーレナが使っていた家に行き、小さな人形に愚痴をこぼした。人形は「おばあちゃんはちゃんと、おまえさんが頑張っているのを知ってるからね」とアルバスを慰めた。

王都を離れたゼロたちは廃村で十三番と赤毛の魔女ナナ(七番)と再会する。そこで十三番とアルバスは現在思想の違いにより対立しているという話を聞かされる。さらにアルバスはゼロたちから手紙の返事がないことで精神的に危ない状態にあるらしいが、一行のもとには黒竜島以来アルバスからの手紙は来ていない。これは何者かの策略ではないかと疑うゼロたち。そこにアルバスが舞踏会に参加していた各国の要人たちを人質にして、教会関係者相手に宣戦布告したとの連絡が入る。

アルバスを止めるために王都へ戻る一行の前に、アムニルの体を乗っ取ったサナレと、言うことを聞くしかないラウルが現れた。サナレは自らソーレナを名乗ってアルバスを唆したと語り、「すべては『不完全な数字(セストゥム)』のために」という意味深な言葉を吐いて姿を消した。ゼロたちはまずサナレを追うことに決める。

そして彼女に追いついたゼロたちは、苦戦しながらもリーリの機転により彼女を無力化することに成功する。その直後、アムニルによりサナレは彼女の体から追い出された。
追い出されたサナレはアルバスの持つソーレナの人形に乗り移る。そこにアルバスが現れ、彼女を追ってきた十三番と七番が姿を見せる。
主を心配するホルデムが十三番たちに力を貸したことで、味方が1人もいなくなったと思ったアルバスは偉大なる祖母ソーレナの人形に助けを求めたが、サナレは本性を現してアルバスを嘲笑した。

そんな時、突然彼らの前にゼロと似た風貌の女性が現れた。それはゼロと十三番の師匠であり肉親、そしてサナレの所属する組織「不完全な数字(セストゥム)」を作り上げた泥闇の魔女だった。十三番はアルバスを逃がそうと攻撃を仕掛けるが、反撃を受けてアルバスを守り心臓を貫かれてしまう。泥闇の魔女が去った後、十三番はアルバスに自らの魔力を授けて息絶えた。

一方、人形から逃げ出したサナレは、ゼロの魔法によってアムニルの体には戻れずに泥人形の中に入れられる。泥人形はゼロの魔法陣の上に封印され、鍵として傭兵がテオのナイフを突き立てた。これによりサナレはテオを含め殺した人々の怨念に捕らえられることになる。

ゼロがアムニルから「不完全な数字(セストゥム)」という組織のことを聞いていると、七番が現れて十三番が泥闇の魔女に殺されたことを知る。十三番の前で悲しみに暮れるゼロ。そんな彼女の前に泥闇の魔女が再び現れ、十三番の心臓を贄として、大陸中の獣堕ちに悪魔を憑依させる魔法を発動した。幸いゼロによって「却下」の魔法が作用しているウェニアス王国の獣堕ちは難を逃れたが、それ以外の地域では悪魔となった獣堕ちが大陸を地獄に変えた。

禁書館の司書

悪魔によって大陸の半分が一夜にして滅んでから数日。魔法の影響を受けないウェニアス王国に多くの人々が避難していた。ゼロたちの知り合いのカルやフェーリア、クレド、リザ、ゴーダといった人々も幸い無事だった。
集まった人たちから齎された情報により、大陸の北の地にある「ノックス大聖堂」に生き延びた人々が取り残されている事を知る。彼らを救うため、教会騎士団を主とした遠征部隊が作られ、ゼロや傭兵も参加することになった。

遠征隊が出発して数日後、一行は「禁書館の司書」を名乗る魔女ミナと遭遇する。ミナにより禁書館である砦が聳え立つ村へと案内されるが、隊の半分は魔女を信じられずに勝手に先へ進んでしまう。その結果、先行した隊員は悪魔と出会い、全滅することになる。
禁書館では館長である巨大な虫の獣堕ちが待ち構えていた。館長には「万里を掌握せし千眼の哨」という名の悪魔が憑りついており、遠征隊の隊長のジェマを連れ去ってしまう。
ミナは妹のマディアを人質に取られ、言うことを聞かざるを得なかった。ゼロたちはジェマとミナ・マディアの姉妹を助けることに決める。
そして傭兵が奇襲をかけてゼロが魔法を打ち込むことで館長の無力化に成功。さらに遠征隊の1人が外からゼロの魔法がかかった矢を放ち、館長を獣堕ちから人間に戻した。悪魔はまだ体に残っていたが、争いを好まない千眼の悪魔はおとなしく連行されていった。

ミナとマディアの姉妹を救った一行は、再度北を目指してノックス大聖堂にたどり着く。そこでゼロたちは「多くの人が信仰する教会は、そもそも魔女が作り上げたものだった」という事実を知ることになる。

ゼロの傭兵

500年前、混沌とした時代に猛威を振るっていた魔女。そこで人々は、人間の味方をする白魔女を仲間につけ、悪しき魔女を狩っていった。味方となった白魔女は人々に崇められ、いつしか聖女と呼ばれるようになる。聖女を中心とした集団がのちの教会だ。しかし、生き残った悪しき魔女たちが聖女を騙るようになり、教会は魔女と教会を切り離すことを決めた。全面的に魔女を排除するため、ただ一人の魔女を除き聖女であった白魔女ですらも悪とした。
ノックス大聖堂にいた司祭が語ったのは、このような教会の成り立ちであった。

その夜、ゼロは傭兵のことを1人の男として好意を寄せていると告白する。傭兵もまた、苦楽を共にする中でいつしかゼロのことを好きになっていた。
翌朝、ゴーダと神父、リーリが竜に乗って大聖堂にやってくる。神父とリーリは途中で傭兵の故郷に寄っていた。傭兵が故郷を去ったのは、獣堕ちの自分を狙ってやってきた盗賊に村人が殺されるという事件が起きたことで、自分がいると村に迷惑がかかると考えたからだ。だが傭兵の両親は廃村になった後もずっと傭兵の帰りを待っていたそうで、亡骸の傍には傭兵宛の手紙があったらしい。神父から渡された手紙を読んだ傭兵は、1人静かに涙を流した。

ノックス大聖堂に住む主教は500年前から生き続ける魔女だった。ゼロが彼女に謁見した晩、ゼロと傭兵は悪しき魔女と獣堕ちに対する過激派の襲撃を受ける。2人は大聖堂から逃げた先の森の中で男女の関係となった。一夜明け、契約終了を告げたゼロは傭兵の胸にナイフを突き刺した。それは獣堕ちを人間に戻す魔法が込められた一刺し。ゼロは1人で決着をつけるため、気絶した傭兵を置いて泥闇の魔女のもとへ向かう。

目が覚めた傭兵に人間に戻った喜びはなく、ただ怒りと悲しみがあった。ゼロが一方的に自分を人間に戻したことも、単身で行ってしまったことも許せなかった。そしてウェニアス王国に撤退する前日、傭兵は馬に乗ってゼロの後を追った。
しかしそれを神父が止める。神父は1人の友人として、傭兵のことを心配していたのだ。
傭兵は神父の説得にも応じず、ゼロのもとへ行くという強い意志を見せる。熱意に負けた神父は「神意裁判」を行うことを提案した。「千眼の悪魔が生み出した牢獄に入った傭兵が、自力で出ることができれば無罪、出られなければ無力であるにもかかわらず傲慢なふるまいをしたとして有罪となりゼロのもとへは行かせない」というものだ。

牢獄の中に入った傭兵を待ち構えていたのは大量の悪魔だった。ただの人間になった傭兵は悪魔を前に身動きが取れない。しかしその時、自分の中に別の存在がいることに気づく。1年前、ウェニアス王国の土地にゼロの「却下」を行使するときに呼び降ろした「名も無き悪魔の王」だ。
悪魔の王の力を借りて牢獄の悪魔を従わせた傭兵は外に出た。神父に認められた傭兵はゴーダの竜でゼロのもとへ向かう。
氷漬けになった海の小さな孤島にいたゼロは、泥闇の魔女に体を乗っ取られていた。傭兵を案ずるゼロは泥闇の魔女の支配から抜け出すものの、魔女に魔法が通じない。ついには傭兵が魔女の魔法で重傷を負ってしまう。そのピンチを救ったのは「名も無き悪魔の王」だった。悪魔の王はゼロが紡ぎだす未来を見たいと思い、泥闇の魔女を殺した。ゼロは自分の命を対価に悪魔の王に傭兵の命を救ってもらう。目を覚ました傭兵は大量の悪魔に囲まれたこの窮地を脱するべく、悪魔の王に獣堕ちに戻してほしいと願った。そして傭兵はぐったりとするゼロを担ぎ、悪魔たちを倒しながらラッセル大聖堂へと帰還した。

疲労で意識を失っていた傭兵が目覚めると、傍らにはゼロの姿があった。ゼロは「魔女としての命」は奪われたものの、人間としては生きていたのだ。
ウェニアス王国へと戻ったゼロや傭兵ら遠征隊一行は、英雄の凱旋として迎えられた。ゼロと傭兵は、傭兵の生まれ故郷の村を復興する事業に参加する。神父やリーリは傭兵の村の復興が進み教会ができると移り住んできた。アルバスはウェニアス王国に新しく作られる魔法学校の初代学長に選ばれた。
ある日、ゼロのもとにアルバスから依頼状が届く。魔法学校の教科書としてゼロの書の写本の作成を認めてくれないか、というものだった。ゼロの書が引き起こした騒動を思い返し厳しい表情をするゼロだったが、危険な魔法を取り除いて新しい本を書くことに決める。
傭兵が「その本のタイトルはどうするんだ」と聞くと、ゼロは「ゼロから始める魔法の書」だと自慢気な顔で答えた。

『ゼロから始める魔法の書』の登場人物・キャラクター

ゼロ

世間知らずの魔女 ゼロ

CV:花守ゆみり
物語の主人公の一人。一人称が「我輩」という特徴的な話し方をする。魔女にとって本名とは命よりも大事なものであるため、ゼロというのは偽名。泥闇の系統の魔女。ウェニアス王国の森の中で偶然出会った傭兵を助け、その後「ゼロの書」を探す旅の護衛を依頼する。長い間穴蔵で過ごしてきたため、俗世に疎く、大量の宝石を無防備で持ち歩く、着替える際には人目を気にせずその場で服を脱ぐなど、常識から外れている場面を多々見せる。悪魔の最上位に立つ存在「名も無き悪魔の王」との契約を、なんの対価も支払うことなく成立させるという天才魔女。それにより下位の悪魔の多くを従えることに成功し、あらゆる魔法、魔術を使いこなすことができる。「ゼロの書」を書いた理由は、魔法が世の中の役に立てば、魔女に対する偏見もなくなり、自由に外を出歩けるようになると考えたから。しかし結果として、人々の生活を豊かにするための魔法が、多くの人を苦しめる結果になってしまったことに憂いている。傭兵曰く、「料理が好きで、家族の死に涙し、食い意地が張って、世間知らずで、自分で何でもできると思っている」。

傭兵

人間に戻ることを夢見る獣の「傭兵」

CV:小山剛志
物語の主人公であり、基本的に傭兵目線でストーリーが進行する。ゼロに、本名を明かすと下僕として強制的に従わされると脅されてから、本名は本編中で一度も明かされることはない。「獣堕ち」と呼ばれる半人半獣の化け物で、白い虎のような見た目をしている。身長は2mを優に超え、大柄な体格だが、自他ともに認める小心者かつお人好し。傭兵という稼業も獣堕ちでは満足に働くこともできないため仕方なくやっている。獣堕ちの首は古くから魔術で使われる優秀な贄として重宝されており、度々首を狙いに来た魔女や盗賊に襲われた経験から魔女が大嫌い。故郷の村では偏見や差別がなく、平和に暮らすことができていたが、ある日自分を狙いに来た盗賊に村を襲われ、3人の村人が死んでしまうという事件をきっかけに、村を出て傭兵となる。実家が酒場を経営していたことで、料理の腕は高く、ゼロも「そこらの店よりもうまい」というほど。将来の夢は小さな酒場を開いてかわいい女房を貰ってのんびり暮らすこと。

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