ドールズフロントライン(ドルフロ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ドールズフロントライン』とは、中国のサンボーンが開発しているスマートフォン用のゲームアプリである。民間軍事会社の指揮官であるプレイヤーは、第三次世界大戦により荒廃した近未来を舞台に、人工知能の反乱により襲い来る機械の兵士たちを撃退するため、銃の名前を冠する戦術人形と呼ばれる機械の少女を率いて戦うことになる。

鉄血を操り全生命の抹殺を企んでいたのは地球の管理者であるテラ・コンピューターであった

〈グリフィンシティ〉
アルマはSuper-Shortyたちにホワイトナイト基地の地下室から救出されていた。アルマは政府にとって不都合な存在としてホワイトナイトに軟禁されていたのだ。喪われたと思っていた部下との再会で、感激のあまりSuper-Shortyを抱きしめるアルマ。しかし、Super-Shortyはアルマのことをまったく覚えていなかった。そして、アルマはこれまでのいきさつについて語り始めた。
優秀なハッカーであったアルマは、ステラからの勧誘を受けてI.O.P.社の下部組織16Labで働いていた。そんなある日、アルマは鉄血のエルダーブレインについて調べるようステラから依頼を受けた。そして、アルマは鉄血のオーガスプロトコルを逆探知したことでグリフィンシティを脅かす鉄血人形を造り出したのがテラ・コンピューターであることを突き止めたのだ。地球環境を管理するはずのテラ・コンピューターがなぜグリフィンシティを襲うのか。アルマはそれを知るためにテラ・コンピューターへ戦術人形を侵入させようとした。そのうちの1体がSuper-Shortyであった。しかし、Super-Shortyともう1体の戦術人形がテラ・コンピューターの所在地に潜入したと同時に、テラ・コンピューターは姿を消してしまったのだ。アルマは、Super-Shortyの記憶を修復すればその謎がわかるのではないかと考えていた。そのためにはSuper-Shorty自身が自分の電脳に侵入して、模擬戦闘でファイアーウォールを突破しバグを破壊しなければならない。困惑するSuper-Shortyだったが、デイナの後押しで自分の記憶を取り戻すための戦いに臨む。
Super-Shortyの目前に広がるのは過去の記憶により構成された情景。鉄血の軍団に包囲される中、パートナーであるIDWと共にテラ・コンピューターに潜入し、コンピューターが現在実行している命令の内容を確認するという任務に臨んでいる自身の姿であった。Super-Shortyは、自分のことを「おチビちゃん」と呼ぶIDWのことが気に入らなかったため、何かと刺々しく当たっていた。
無事に鉄血の部隊をやり過ごしてコンピュータールームに潜入したSuper-ShortyとIDW。Super-Shortyは外部の防御パネルを操作することになり、コンピューター内部への侵入はIDWが担当することとなった。そして、IDWがテラ・コンピューターへのハッキングシステムを起動すると、現れたのは一人の少女だった。彼女の名はエリザ、テラ・コンピューターのAIアバターである。エリザは、誰かの単なる愚痴のような入力を「原因、目的、具体的な行動内容の揃った命令」と認識、それを迅速に実行すべく鉄血人形を生産して地球上の全生命絶滅作戦を開始したのだ。IDWは命令取り消しを実行しようとするが、エリザにこの命令を入力した者はテラ・コンピューターの最高権限保有者であったため下位権限者であるIDWの命令は拒絶された。エリザの感情に訴えて説得しようとするIDWだが、エリザはIDWの使命感も人間によって作られたものであるとして説得を拒絶。それ以外の命令取り消しや遅延の方法も空振りに終わり、あらゆる手段が手詰まりになったかと思われたが、IDWは自分がエリザの代わりにテラ・コンピューターのAIアバターになることで生命絶滅作戦の効率を低下させるという手段に出る。エリザより処理能力の低いAIである自分であればきっとそうなるはずだ、と。IDWは自らをテラ・コンピューターへ接続すると、Super-Shortyに最後の頼みとしてテラ・コンピューターを見つかりにくい場所へ隠すよう要求した。IDWはコンピューターシステムから切り離されたエリザをSuper-Shortyに託すと、自らがテラ・コンピューターのアバターとなり、Super-Shortyはテラ・コンピューターの本体を制御パネル操作により地下深くへ沈めたのだった。最初は気に入らないパートナーだったが、強い使命感と自己犠牲の精神を持ったIDWのことをいつしか認めていたSuper-Shortyは、必ず彼女を助け出すことを誓う。そして、Super-Shortyはエリザを移送ドローンに載せて建物の外に逃がすと、雪崩れ込んできた鉄血の大軍もろともコンピュータールームを自爆させた。これが3年前のテラ・コンピューター消滅の真相であった。
目を覚ましたSuper-Shortyはアルマにあの後エリザを回収できたか尋ねるが、アルマはエリザを受け取る前にホワイトナイトによってサイバー犯罪者として逮捕されていたのだ。Super-Shortyは、過去のエリザから得た情報によってアーキテクトの目的が自分たちを騙して情報を得ることだったと知ったが、当のアーキテクトはデイナたちの前から姿を消していた。
エリザのデータを書き換えて全生命排除の命令を解除し、テラ・コンピューターの活動を正常化させればこの世界は救われると確信したSuper-Shortyは、エリザことエルダーブレインの行方を探そうとする。デイナは、ジェリコがエルダーブレインの所在地を調査すると話していたことを思い出してジェリコに連絡を取るが、ジェリコはホワイトナイト機甲兵の暴走で身動きが取れなくなっていた。デイナたちはジェリコを救出するため現場へ向かう。

〈グリッチシティ〉
グリッチシティにおけるグリフィンの治安維持実験もあと一週間。終わり次第彼女らはこの街から去るという。どうやら実験はうまくいかなかったらしい。
今日最初の客はまたしてもグリフィンの人形・G28だった。彼女のあまりの巨乳ぶりに驚くジル。最初に頼んだ甘いカクテルを「姉が好きな味」というG28。グリフィン人形の姉妹関係に興味を持ったジルはそのことについて尋ねるが、G28が言うにはグリフィンの戦術人形の姉妹はエッチングシステムで決定された銃の関係によって決定されるとのことだった。特定の武器に戦術人形の人格データが紐付けされることでその銃を使った戦闘効率が向上するというシステムだが、それが人格形成にも影響するのだという。G28の別名はHK417であり、だからHK416と紐付けされている416はG28の姉なのだ、と。姉の好きなカクテルを飲んでみたかったというG28に、何故一緒に来店しなかったのかを問うジル。G28は残念そうに「姉とは不仲だ」と言う。人間のような家庭関係のもつれではなく、単に性格が合わないらしい。自分自身を「元気でかわいいタイプ」と評するG28。しかし416は気難しくて他人を周囲から遠ざけているのだという。G28はそんな姉をなんとか周囲に溶け込ませたいと思っているのだ。自分自身の好みはビールであり、姉の好きな甘く度数の弱いカクテルはそんなに好きではないと語るG28。彼女が義務的に姉を好きになろうとしていると思ったジルは、家族だからといって無理に相手を好きになる必要はないと助言する。G28は、かつて416が行方不明になった時に自分の記憶から416のデータが削除されたことがあると言う。その後記憶データは復元されたが、自分の持つ感情が本当に正しいのか不安なのだ、とも言う。ジルは、姉のことを理解するのではなく、姉に自分を理解してもらうのが良いのではとG28に助言し、G28もそれに納得して店から出て行った。
それを見計らうように現れた416。彼女はずっとG28とジルの会話を盗み聞きしていたのだ。
G28やグリフィンの同僚には自分を嫌いになって欲しいと語る416。しかし、それは周囲の皆を案ずるゆえの臆病さの表れだった。そんな416に、ジルは人間の家族関係はもっと面倒くさいものだと言う。そして、消え入りそうな小声でG28が好きだと言ったビールを注文し、聞き返されると別の注文へと変える416。ジルにそのことを指摘された416は、開き直ったように大声でビールを注文した。パトロール等の楽な任務に就いているG28や他の同僚と違い、特殊部隊で強い敵と戦い続けている自分に怖れるものなどない、と気勢を張る416は一気にビールを飲み干すと、即座に酔い潰れてしまった。416は甘いジュースみたいなカクテルが好きなのではなく、極端な下戸で強い度数の酒が飲めないだけだったのだ。

E1-6「スピーチ恐怖症」

ベテラン兵士ならではの冗談に気圧されるジルは、M16にデイナと同じものを感じた

〈グリフィンシティ〉
ドロシーの身体を奪ったアナだったが、何故か突然アナの身体から出ていってしまった。その隙をついてドロシーの身体をハッキングしたステラは、ドロシーと共にグリフィンシティ政庁から脱出するため走り続けていた。情報通りなら通路がある場所が行き止まりになっており、焦るステラ。しかしそこは隠し通路で、その隠し通路から現れたのはセイだった。セイはステラを助けるためにここまでやって来たのだ。再会の喜びで抱き合うセイとステラ。ドロシーを加えた3人は隠し通路を通って脱出しようと試みる。この隠し通路はホワイトナイトの隊長しか使えないものであり、セイはその権限をジェリコから移譲されていたのだ。セイはステラを守るためジェリコを撃ったが、躊躇いのため弾は外れてしまった。事情を察したジェリコは、セイにステラを守らせるために隊長権限を委譲し政庁まで行かせたのだ。
ステラが鉄血の指揮モジュールを入手した経緯を尋ねるセイ。本来はアルマの元へ届くはずであったエルダーブレインだが、アルマがホワイトナイトに逮捕されたため代わりにステラがエルダーブレインを受け取っていたのだ。ドロシーはホワイトナイトにアルマを逮捕する命令を出していないという。つまり、アルマの逮捕もアナの差し金だった。それから3年間、ステラはエルダーブレインの身体を研究し、鉄血とテラ・コンピューター、そしてドロシーとアナについての調査を続けていたのだ。そのため、最愛のセイともすれ違いになり別れ別れになってしまっていた。セイは、そんなステラに他人を頼り信頼することの大切さを諭す。
ステラの想定を超えた事態によってグリフィンシティのみならず地球全体が危機に陥っている中、その黒幕であるアナに関する情報が不足していた。ステラはドロシーにアナについての手がかりを求める。ドロシーは、かつてアナが「VA-11Hall-A」が全てのはじまりであると話していたことを思い出す。ステラたちは、「VA-11Hall-A」へ向かうことを決意した。政庁の外に出たドロシーは、市民に向かいこれまで自分が黒幕に操られて市民を騙していたことを告白。改めてグリフィンシティを救うために市民の協力が必要であることを呼びかけた。
市民の援護を受けて機甲兵から逃れ「VA-11Hall-A」へと辿り着いたドロシーたち。そこにいたのは先ほどの聴聞会で記者をしていた人形のG28だった。彼女はバーテンダーのバイトでもあったのだ。ギリアンと名乗るG28は、店長のジルは家に避難したという。しかし、ドロシーはギリアンが作ったカクテルの味から彼女の言葉に嘘を感じた。ドロシーからギリアンは何かを隠していると示唆されたステラは、ギリアンをハッキングしてジルの居場所が裏口であることを知った。裏口へ向かったステラたちに、ジルの言葉が聞こえる。黒髪の幽霊のこと、そしてこの場所が全てのはじまりであり全ての終わりである、と。裏口のドアから転がり出たドロシーたちはジルを問い詰めるが、ジルは幽霊の召喚に成功したのだと言う。黒幕であるアナへの手がかりとなる「世界最後の希望」がいい歳をして降霊術がどうのという27歳女子の厨二病であったことに落胆するドロシーたち。しかし、ステラはあながち嘘とも思えないとしてジルに幽霊の話を聞く。ジルが呼び出すことに成功した幽霊の名はアナ・グレアム。この事態の黒幕その人だった。アナは自分を指導してくれる霊だと語るジル。彼女はアナに騙されていると思ったドロシーたちはジルからアナの居場所を聞き出そうとするが、その時ドロシーの身体が宙に浮き上がった。ギリアンが最初にドロシーに飲ませたカクテルに浮遊薬が盛られていたのだ。ステラのハッキングを逃れたギリアンが妨害した隙に逃げ出そうとするジルだが、セイはその妨害を跳ね除けてジルを捕らえる。しかし次の瞬間、ジルは姿を消していた。ステラたちに捕らえられたギリアンは、ジルとアナ、そして世界の真実について話しはじめた。

〈グリッチシティ〉
デイナが連れてきた「友達」、それはグリフィン人形のM16だった。デイナとM16は一緒に強盗犯をボコボコにしたことで意気投合、友人になったのだという。デイナが書類を届けるために外出している間、M16の相手をするように頼まれたジルだったがどこか上の空だった。それはデイナが自分の知らないところでグリフィンの人形と親しくしていることが原因であり、それをM16は見抜いていた。ジルがこれまで会ったグリフィン人形全員分の戦闘経験より自分一人の戦闘経験が上回ると豪語するM16だが、それはさすがに冗談だった。酔い潰れてソファで昨夜からずっと寝ている416は自分と同等の戦闘経験の持ち主で昔馴染みだというM16。強い酒が飲みたいという彼女に、とりわけキツい一杯を出したジル。M16は「合法的に人をボコった後はやっぱこれだよこれ!」と物騒なことを言いつつ上機嫌であった。M16をベテランと呼ぶジルに自分はまだ少女だと主張するM16だが、思い返すと訓練期間も実戦経験も長かった自分は年増なのかもしれないと言う。だが、外見年齢的にはずっと歳を取らないと開き直る。更にたとえ外見が老いて衰えても精神的には自分はずっと若いままだ、と言い切るM16に、ジルはずっと自称17歳を主張するデイナと同じものを感じ、二人の気が合う理由を察する。M16も、デイナとジルの関係に自分とM4の姿を重ね合わせていた。いつか離れ離れになった時にデイナがジルに与えてくれた信頼について思い出せばいい、と言うM16。
そこに現れたのは常連客のステラ・星井だった。ステラとM16は、お互いに右目が眼帯と義眼であることからしばし顔を見合わせていたが、不躾な行為だと思い共に詫びていた。詫びのしるしにM16に一杯奢ろうとしたステラだったが、M16はこの後デイナと飲みにいくためそれを断る。ステラもここでセイと待ち合わせているのだという。二人でグリフィンの基地に行き、キラ☆ミキのファンという人形といわゆるオフ会をするのだ、と。それがK2のことだとわかったM16は、K2たちはバンドを組んでいてキラ☆ミキの曲を演奏したのだと語る。それをきっかけにM16と話が弾むステラ。そこにセイがやってきた。セイが不祥事により解散したはずのホワイトナイトの装甲服を着ていることを怪訝に思うM16だったが、それはグリフィン基地のスタッフに頼まれて装甲服のデータを提供するためだという。現在のセイはステラのボディガードをしているのだ。
最後にステラはM16に人間への対処について聞くが、M16は「いかなる時でも危害を加えようとしている対象に対してその場で反撃することを許されている」と答える。戦術人形は人間に危害を加えてはならないというロボット三原則から解き放たれていた。そして、M16は特殊な人形のためデータのバックアップができない、つまり他の人形より死を怖れているのだとも。しかし、それでもM16には自分の命より大切なものがあり、そのためなら死の恐怖を克服できるのだと語った。
そこに書類を届け終えたデイナが戻ってきた。飲む場所を決めかねていたデイナとM16はステラたちのオフ会に相乗りすることとなり、4人は共にグリフィン基地へ向かう。ジルもデイナに一緒に行くよう誘われたが、ジルは疲労を理由にそれを断った。最後にM16は、まだソファで寝ている416の写真を撮っていくのだった。
そしてジルも店を閉めて帰ろうとするが、疲れからの急な眠気で眠り込んでしまう。

E-1-7「本音大冒険」

ひねくれて自己嫌悪に陥っていたSuper-Shortyと純粋でまっすぐなIDWはやっと友達になれた

〈グリフィンシティ〉
その頃、デイナとSuper-Shortyはテラ・コンピューターのルーム跡地へ辿り着いていた。3年前の事件について、もっと良いやり方があったのでは、と悔やむSuper-Shorty。しかし、デイナはSuper-Shortyの決断を褒める。Super-Shortyは、テラ・コンピューターがなぜ鉄血人形の代わりに砂の雨を降らせるようになったかはコンピューターのアバターAIがIDWのものになったからだと言う。猫の精神性を持って設計されたIDWのメンタルデータに影響を受けたテラ・コンピューターは、地球の生物や人形たちを猫のうんこと見做して空から猫砂を降らせていたのだ。体が小さく性格が短気なところがコンプレックスだったSuper-Shortyは、自分が3年前の任務の担当に選ばれたのは狭い所に潜り込むのに小ささが有利だからということで周囲に当たり散らし、特にIDWに辛く当たっていたことを悔やんでいた。だからこそ、IDWが自分のことを嫌いにならなかったのが理解できなかったのだ。デイナはそんなSuper-Shortyに、IDWと再会して改めて彼女と向き合うよう説く。
地下深く、テラ・コンピューターが3年前に隠された場所の近くまでやって来たデイナたち。しかし、そこは鉄血の防衛ユニットによって堅固に守られていた。いくら腕自慢のデイナでも処理しきれないと思ったところに、ジェリコ率いる援軍が駆け付けた。その援護を受けてようやくテラ・コンピューターの本体を発見したデイナたち。Super-Shortyは、自分の小ささが友を助けるための長所になるのだ、とこれまでのコンプレックスを克服するかのようにコンピューター内部に潜り込もうとした。しかし、コンピューターの外壁が大きく割れたことで転落しそうになる。そのSuper-Shortyの腕を掴んだのは、割れた外壁の中から出てきたIDWだった。再会に感極まるSuper-Shortyだったが、IDWの方は3年前と全く同じ様子だった。テラ・コンピューターのアバターAIとしての権限で鉄血の攻撃を停止させたIDWは、Super-Shortyたちと共に地上へと向かう。そんな中、自分がIDWに辛く当たっていたことを詫びるSuper-Shorty。しかし、IDWはまったくそれを気にしていなかった。IDWは、自分がだらしないから辛く当たられるのだと思っていたのだ。そんなIDWに、彼女が世界を救うチャンスを作ったのだと言うSuper-Shorty。IDWは、Super-Shortyがいたから助け合い、間違えることなく世界を救えたのだと主張する。Super-ShortyとIDWは、3年前の続きとして改めて任務の完遂を誓い合う。今度はパートナーというだけでなく、本当の友達として。
ホワイトナイト基地に帰還したIDWを出迎えたのはアルマの熱烈なハグだった。あまりに強く抱き締められてもがき苦しむIDW。Super-Shortyは、アルマが自分たちを選んだのはただ体が小さいからだと思っていた。しかし、アルマはSuper-ShortyとIDWなら任務を遂行してくれると信じたから選んだのだった。勝手な思い込みでひねくれていたことを悔やむSuper-Shorty。だが自分自身と仲間を信じることができるようになった今のSuper-Shortyに迷いはなかった。
アルマを連れて再びテラ・コンピューター本体へとやって来たデイナたち。Super-ShortyとIDWは、解析済みのエリザを再びテラ・コンピューター内部に押し込み接続する。しかし、エリザは起動しなかった。そこでIDWが異音に気付く。テラ・コンピューターには爆弾が仕掛けられていたのだ。慌ててフォースシールドを張ったSuper-Shortyによってアルマたちは守られたが、テラ・コンピューターは爆発してしまった。そして、コンピューターの残骸の中から現れた少女。それは、エリザのデータを基にして実体を得たアナ・グレアムだった。この世界の神となることを望んだアナは策謀の末に自身をテラ・コンピューターそのものと化したのだ。そして、それを手引きしたのはアーキテクトだった。デイナに買収され仲間になったふりをしてアルマに接近し、こっそりエリザのデータに仕掛けをしていたのだ。
アナの目的はやはりこの世界の滅亡だった。アナは、この世界が偽物であると言う。特に理由はなく、偽物の世界だからアイスクリームやロールケーキで覆い尽くして女子高生らしく滅ぼしてしまおうというアナは、完全にデイナたちの理解の外にある存在だった。もう数時間で世界が滅ぶと言い残して姿を消したアナを呆然と見送るデイナたち。そこに現れたのはセイとステラ、そしてドロシーだった。ステラは、世界を救うために止めるべきはアナではなくジルだという。理解できないという顔をするデイナ。ステラは、自分たちが守らなければならないのは「この世界」ではないというのだ。

〈グリッチシティ?〉
閉店作業中に疲れて眠り込んでいたが、目を覚ましたジル。そこにいたのは「VA-11Hall-A」のバーテンダーを名乗る戦術人形・スプリングフィールドだった。ジルを客として扱うスプリングフィールド、それがおかしいことに気がつきそうで気がつかないジル。そこに現れたのは巨大な武器を担いだ鉄血の人形・アーキテクトだった。彼女は、アナに言われてもう一人のジルに会ってきたという。困惑するジルに、アーキテクトは「ここは存在していないところなんだから」と言うのだった。別の世界で別のジルに会ったことを話すアーキテクトだが、その世界はそろそろ滅ぶのだと言う。アーキテクトはジルに、別の世界の幸せな自分に取って代わりたいとは思わないのかと囁く。しかしジルはそれを拒絶する。それを受けたアーキテクトは、今の記憶を持ったまま過去に戻りたくないかと改めてジルに問う。それにはすぐに「戻りたい」というジル。同じような話なのに何故別の世界はダメで過去に戻るのは良いのか怪訝に思うアーキテクト。しかし、ジルは平行世界の自分は所詮他人であり、取って代わっても馴染めないかもしれないと言うのだった。そのジルの答えを「予想通り」と評するスプリングフィールド。アーキテクトとスプリングフィールドに事情の説明を要求するジルだったが、アーキテクトはそれを拒否した。そして、アーキテクトは再び「あっちの世界」へ移動してしまう。巨乳の人形が自分に成り代わっていることが気に入らないジルは煙草を吸うためバーから出ようとするが、スプリングフィールドはバーの外には何もないという。諦めたジルは、スプリングフィールドの技量を確かめようとカクテルを注文した。想像以上の実力に納得するジルは、再度事情の説明を要求する。スプリングフィールドは、今のジルは意識を電脳空間に置かれているのだと説明する。人間の脳をデータとしてアップロードすることが可能なら、それをダウンロードすることも可能なのではないか。スプリングフィールドのその説明で、ジルは自身の状況とアーキテクトのこれまでの言動の意味をなんとなく理解するのだった。
スプリングフィールドが言うには、泥酔して眠り込んだ416の電脳データと、ナノマシンの身体を持つ電脳生命体であるアナ・グレアムが何かの間違いで融合してしまったことで電子空間内に全く新しい世界が発生してしまい、それを調査するために捕虜の鉄血人形であるアーキテクトの電脳データをその世界に送り込んだのだという。そして、事態はもうすぐ解決されるがその結末はジルの決断次第である、と。
スプリングフィールドが「シンデレラの時間は終わり」というとスプリングフィールドはカフェ店員の制服姿に変化しており、そして客だったはずのジルはいつの間にかカウンターの中にいた。別れに最後の一杯を頼むスプリングフィールド。ジルの作ったその一杯を堪能したスプリングフィールドは、「あなたは、偽物を受け入れられますか?」と謎めいた問いを投げかける。ジルは、「VA-11Hall-A」で出しているカクテルは合成酒で作った偽物だが、もたらす酔いは本物だと言う。そして、だからこそ偽物の中には本物があるのかもしれないと答えるのだった。その答えに満足したスプリングフィールドは、ジルにこの後の全てを任せると言う。その真意を告げることなく、スプリングフィールドは去っていった。
不可解な出来事の連続にどうしていいかわからなくなったジル。そこに新たな来客が訪れた。その姿を見たジルは、あまりのことに仰天してしまう。その客は、「モデル少女ジュリアン」のコスプレをしたジルだったからだ。27歳女子である自分自身が子供の頃に大好きで、そして中学時代の苦い思い出とも結びついている魔法少女アニメの格好をしているもう一人のジルは、「やっと会えたね」と言うのだった。

E-1-8「この世界最後の雨」

アナはジルを「本当の世界」へ送り出し、その先の選択を委ねることに決めた

終わった世界から飛び出し、新たな生を得たジルたちの冒険はこれからも続いていく

〈グリフィンシティ〉
アナはこの世界をどう終わらせるかが、自身の本質と向き合うための問題だと考えていた。そして、アナはステラたちに捕まりそうになっていたジルを自分が人生の大半を過ごした病院へと呼び寄せていた。アナはジルに自分とジルが最初に出会った時のことを覚えているか問う。しかし、ジルの記憶からはその時に何が起きたかが欠落していた。アナは、その理由はこの世界が作られたものだからだと言う。この世界は、本来あるべき完全な世界から分離したものだと。滅びに瀕しているこの世界は偽物で、本物の世界では何のこともない日常が続いているのだというアナ。
この世界は単なる酔っ払った戦術人形の意識世界でしかなく、ナノマシンの集合体であった本物のアナは、その酔っ払った戦術人形の放つおかしな電波によってその中に囚われてしまったのだと。そして、アナの持つグリッチシティの日常についての記憶と、その人形の持つグリフィンでの記憶が混濁した結果グリフィンシティが誕生してしまったのだ。
自分たちの世界がただの酔っ払いの妄想でしかなかったことに呆れつつ絶望するジル。この世界は、その酔っ払い人形が再び正常に起動したら消えてしまうのだ。アナは、自分にとって最も大切な存在であるジルにそのことを知らせたかった。そして、この世界がアナの知っている限りにおいて最も強いジルの持つマイナスの感情、「犬だけで経営されている会社(2070年代のグリッチシティにおいては人語を解する犬が市民として存在する)がジルの店でパーティーを開き店が尿と洗剤まみれになったこと」と「ジルが前の彼女と喧嘩別れして、それがそのまま死別となったことによる自己嫌悪」が滅びの原因となっていることも。
そして、アナはこの世界を救う方法が一つだけあるという。それは、この世界のジルの意識が本物の世界のジルを乗っ取り成り代わること。アナは、そのためにこの世界で鉄血や戦術人形のことを研究し、ナノマシンとなったこの世界のジルを本物の世界に送り込み、神経電波を書き換えて記憶を上書きするという方法を開発したのだ。しかし、ジルはそれを拒否する。それは一人の人間を殺すのと同じことであると。しかしこの世界のアナは、この世界のジルを失いたくない、生きていた証を残したいという。アナは、その選択をジルに委ねるという。本物の世界にナノマシンとしてジルを送り込み、本物のジルを乗っ取ってもいいしそのまま消えてもいいと。そしてアナは躊躇うジルを本物の世界に送り出すのだった。
そして、アナの拠点にはSuper-Shortyたちが乗り込んできた。彼女たちの説得もアナの信念の前には意味をなさず、もはや戦うしか道はなかった。ジルがこちらの世界に戻ることを信じて本物の世界とこの世界を繋ぐ道を維持しようとするデイナたち。アナも戦闘形態に変形してデイナたちを迎え撃った。

〈グリッチシティ?〉
グリフィンシティの世界から現れたジルは、アニメ「モデル少女ジュリアン」のコスプレをしていた。その姿を見たグリッチシティのジルは、「冗談!これはきっと何かの冗談よね!」と叫んだ。慌てるグリッチシティのジルを宥めるグリフィンシティのジル。しかし、グリッチシティのジルはもう一人の自分が年甲斐もない魔法少女姿で現れたことに憤激、殺したいとまで言い放つ。魔法少女姿のジルは区別のためジュリアンと名乗り、これまでの自分のことを語り始めた。アナと楽しく過ごしていたこと、バーで働いていてたくさんの愉快な客と出会ったこと。ジルは先ほどのスプリングフィールドからの説明で、ジュリアンが酔っ払った416の夢とその416が出したおかしな電波に巻き込まれたアナの意識が融合して出来た世界からの来訪者であることを察していた。416に飲めない酒を無理に奨めなければ、と後悔するジルだったが、それでは自分たちが生まれなかったというジュリアン。何か自分にできることはないかというジルに、ジュリアンは「ゼンスター」というカクテルを頼む。何もかもが平均的で、それゆえに美味ではない酒だ。何を選択しても苦痛になるのであれば、重要なのは何を選んだかではなく、その選択を受け容れるかだ、と語るジュリアン。生きているならそれが当然だと返すジル。より良い人間になるために、向き合わなければならないことと向き合いたいというジルに、ジュリアンは自分の記憶を違う自分に書き換えられてもそうありたいかと問いかける。ジルは、それも良いかもしれないと思い、あえてジュリアンに身を委ねるが、ジュリアンはジルの記憶を書き換えなかった。世界を揺るがす問題だらけのグリフィンシティより、こまごまとした嫌なことが積み重なるグリッチシティでの日常の方が大変だと語るジュリアンは、その日常の中でよりよい人間になれるかもしれないジルの可能性を消したくなかったのだ。ジュリアンは滅びゆくグリフィンシティの世界に戻ることを決意すると、ジルには今起きている嫌なことに立ち向かう勇気があることを告げる。結局自分のことは自分でなんとかしないといけない、そう腹を括ったジルは去りゆくジュリアンを見送るのだった。

〈グリフィンシティ〉
ジュリアンが戻ってきたグリフィンシティの世界は荒廃しきっていた。誰もいない廃墟で呼びかけるジュリアンを迎えたのは、テラ・コンピューターのアバターであるエリザだった。今のエリザはステラとアルマ、そしてデイナたちに拳で説得されたアナによって改良され、この世界そのものを管理する神となっていたのだ。デイナたちを探そうとするジュリアンに、エリザはこの世界の人々全てが消えたのだと説明する。エリザは、ジュリアンが戻るまでこの世界を維持するためのメモリ容量を確保すべく、全ての人々を削除してしまったのだ。それはエリザの独断ではなく、消えていった人々みんなの願いだった。激昂するジュリアン、謝り続けるエリザ。再びみんなと会うためにジルの記憶を書き換えることなくこの世界に戻ってきたのに、そのみんながいないのでは意味がない、と号泣するジュリアン。しかし、エリザはジュリアンが彼らのことを覚えている限り彼らは消えたことにはならないと説く。それはアナが伝えた言葉だった。この世界は滅んだ、道を間違えた。けれど、ジュリアンがそのことを覚えているならそれは無意味ではなかった。それはこの世界の人々の選択だった。ジュリアンの涙はこの世界最後の雨。そして、世界はあるべき姿に戻ろうとしていた。
ジュリアンが向こう側に留まらずこの世界に戻ると決めたのなら、それはそれなりによい人生を過ごしたということだと語るエリザ。ジュリアンは、この世界で楽しく過ごせた、とエリザに告げる。選択は必ずしも人を幸せにはしないが、一歩前へと進めることができる。そう言うエリザに応えて、ジュリアンは自分の選択の結果を受け容れることを決めた。そして、この世界は終わった。

〈グリッチシティ〉
疲労の末に店で眠りこけてしまい、ようやく目を覚ましたジル。ジルを起こしたのは戦術人形のFive-Sevenだった。Five-Sevenは店で泥酔していた416を回収に来たのだ。しかし416の再起動にはもう少し時間がかかりそうである。待ってる間に何か飲むかと勧めるジルだが、Five-Sevenは見知らぬ相手と酒を飲むのは好きではないと言う。ジルは、このバーは飲んだくれが寝転がるような場所ではなく、会話を楽しむ場所で、あの泥酔している人形は例外だと答えた。そんなジルを「悪人ではなさそう」と評したFive-Sevenは、カクテルを頼む。自分達の部隊の隊長はワインのような気取った酒が好きで、こういうものは飲んだことがないと評するFive-Seven。ジルは、お客に新鮮な喜びを提供するのがバーの役目で、ただ酒に酔いたいだけなら自室で缶ビールを飲んでいればいいという。Five-Sevenは、ジルに酒を飲むのが好きかと問う。ジルは、自分自身は他所の店で飲むよりは自室でビールを飲む方がいいと答えた。あくまでバーテンダーは仕事の範疇で趣味とは違う、と。Five-Sevenは、同僚の戦術人形も同様に仕事と趣味を切り離している者が多いという。彼女自身は、自分は造られた存在だから仕事であっても自分の意志を反映して期待に応えるべきだと考えていた。そんなFive-Sevenを反抗期のない子供のようだと喩えるジル。その時、416が目を覚ましてFive-Sevenにしなだれかかってきた。トイレで破れた服を着替えて戻ってきた416に酔い覚ましを飲ませたジルは、記憶が飛んでいた416にその間のことを説明する。酔い潰れた後、G28に自分のことを忘れるよう叫んでいたと知り自己嫌悪に陥る416。そして416は、全員の仲が険悪になって大失敗した訓練の話もしていた。その時416と一緒にいたメンバーはジェリコ、Super-Shorty、IDW等だった。更に酔いがひどくなった416は、最後には自分の服を破いて裸踊りを始めてしまったのだという。そこまで聞いてジルにこれ以上喋らないよう脅迫する416。Five-Sevenは、グリッチシティでのグリフィン部隊のお別れ会をこの店で開きたいという。ジルは、オーナーのデイナに相談すると約束した。戦術人形のような風変わりな客が好きなデイナはきっと喜んで許可するだろう、と。
416たちが帰り、ようやく静かになったと安堵するジルの前に現れたのはアナだった。アナは、自分が世界を滅ぼす幽霊になった夢を見たという。

〈グリフィン基地〉
その頃、グリフィン基地のメンテナンスコフィンで目を覚ました1体の戦術人形がいた。戸惑いながら外に出た彼女。ドアの向こうには、宿舎内のカフェで働くスプリングフィールドの姿があった。スプリングフィールドの出迎えを受けたその戦術人形はジュリアン、つまりあちらの世界のジルだった。ジルの外見を模した戦術人形にあちらの世界のジルの記憶を転写し、消滅させずに残したのだ。世界の終わりを迎えたはずの自分が生きていることに疑問を抱く戦術人形のジル。しかし、スプリングフィールドはこれが夢でも現実でも大差なく、生きていることこそが大事なのだと説く。
ジルが戦術人形として再び生を得たきっかけは、グリフィン基地の後方幕僚カリーナに届いた奇怪なメールだった。存在しない世界から送られてきたメールに関心を持ったグリフィンの指揮官は、WA2000と捕虜のアーキテクトを416の電子頭脳に出現した電脳世界に潜入させ、グリフィンシティが存在するその世界のデータを複製して、そこからジルたちの記憶をメンタルモデルとしてサルベージしたのだ。驚くジルの前に現れたデイナ。彼女もデータから戦術人形として造られたのだった。そしてアルマやドロシー、セイ、ステラ、あの世界のSuper-ShortyやIDWたちも。アナは戦術人形ではなく妖精としての身体を得ていた。アナがかりそめの身体としていた人形「ネイト」は危険な存在であり、グリフィンでは使用できなかったのだ。しかしアナはこれまでのようなナノマシンの幽霊ではなくドローンであっても実体を持てたことを喜んでいた。
こうして戦術人形として新たな生を得た「Va11-HallA」の面々は、次の任務のために指揮官を出迎えるのだった。

DJMAXコラボ「Glory Day」

01 「Avec Nous!」

M950AとThunderは、妖精たちの音楽に安らぎを感じる

ある遺跡発掘現場の警備を任されたグリフィンの臨時編成小隊。その副隊長であるM950Aは、規律を重んじ過ぎる性格のせいで他の隊員から煙たがられていた。M950Aも、任務に熱心でない他の隊員たちに苛立っていた。今朝も訓練の集合時間に遅れる他の隊員を呼びに回っていたところ、新入りのThunderが銃をぶっ放した。無口で無表情なくせに感情表現と称していちいち巨大な拳銃から轟音を響かせるThunder。M950AはそのThunderに、同室のAEK-999がどこに行ったか尋ねる。Thunderは、AEKは朝一番にどこかに行ってしまったと告げる。気まぐれでサボり癖のあるAEKには他の先輩グリフィン人形たちも匙を投げており、彼女に対して口うるさく言うのはM950Aだけであった。AEKがまた隠れ家にいると思ったM950Aは捕まえに行こうとし、Thunderにも同行を命じる。感情がわかりづらいせいで他の人形から距離を置かれているThunderにいちいち構うのはM950Aだけであった。規律正しい生活の大切さを訴えるM950Aの熱弁を聞き流しつつ共にAEKを探しに行くThunder。仕事熱心なM950Aとは裏腹に、臨時編成小隊が警備を任された地区は鉄血すら滅多に現れない荒廃した旧市街であり、他の小隊員がやる気を失うのも当然であった。そんな中で、Thunderは自分に構ってくれる数少ない人形であるM950Aに従って、グリフィンの風紀委員として弛んでいる他の小隊員を注意しに行くのであった。
AEKの隠れ家、それは現在は戦術人形の宿舎となっている旧市街の建物が人間のものであった頃に設置されていたレクリエーションルームを機械弄りが趣味のTMPが修復したものであった。AEKやTMPはここで戦術人形の電子戦のような形で電脳世界に入り込んで遊んでいるのだという。AEKを引きずり出してやると意気込むM950Aの前に現れたのは、探していた当のAEKであった。AEKは訓練のために必要な旧時代の資料を電脳世界で探していたのだという。普段から音楽とゲームにかまけてやる気のないAEKの言い分を信用せずに噛みつくM950Aだったが、AEKはM950Aのその態度に反発する。二人が険悪な雰囲気になったその時、突然警報が鳴り響いた。地区内に鉄血の部隊が現れたのだ。ようやく実戦の機会を得たM950Aは意気込むが、隊長のK2によれば鉄血の部隊が現れたのは警戒エリアからかなり遠方であり、戦う必要はないかもしれないということであった。指揮官からの指示も「戦ってもいいし戦わなくてもいい」と曖昧であり、臨時編成小隊の面々は自分たちが期待されていないことを改めて知らされて拍子抜けする。ThunderとM950Aは先制攻撃を主張するがTMPとAEKは様子見を主張する。隊長のK2は、目標がこの地域でなくても鉄血部隊は叩いておくべきと判断して出撃を決定。M950Aは出撃時にもヘッドホンを付けたままのAEKを注意するが、AEKは音楽があった方が戦いに集中できる、と外すことを拒否する。AEKは「あの街で掘り出した」と言って手に入れた新しい曲をTMPとデータ共有するが、その言葉の意味はこの時点ではまだAEKたち以外にはわからなかった。
たとえ単なる輸送部隊相手とはいえ、初の実戦にもかかわらず鉄血をあっけなく撃退してしまったM950Aたち。初めての戦いは手ごたえのないまま終わってしまい、協力関係の構築どころかかえって隊員同士の不仲を加速させてしまうだけであった。勝利を喜びもせず棘々しい態度のまま帰っていったAEKを怪訝に思うK2。AEKの棘々しさはやはりレクリエーションルームに原因があると睨んだM950Aは、Thunderと共にレクリエーションルームで待ち伏せしてAEKを捕まえようとする。しばらく待った後に現れたAEKは装置に接続して電脳世界に入っていった。システムモニターでAEKが何をしているのかを確かめようとしたM950Aだったが、AEKの意識レベルはモニターで観測できない状態になっていた。異常を感じたM950Aは、Thunderと共にAEKと同じ電脳空間に接続してAEKに何が起きたのかを突き止めようとする。周波数を合わせて電脳空間に入り込んだM950Aは意識を失った。先に目を覚ましたThunderの助けで意識を取り戻したM950Aが見たのは、彼女が予想していた小規模なVRチャットルームなんかではなく、きらびやかなネオンサインに彩られた巨大な仮想都市であった。
あまりの事態に狼狽えて冷静さを失っていたM950Aだったが、Thunderの面白くないジョークで落ち着くと事態を隊長のK2に報告するためログアウトしようとする。しかし、どういうわけかThunderがこの世界からログアウトできなくなってしまった。M950Aは、Thunderをここに置いてはいけないとして単身でのログアウトを拒否、AEKを探し出して脱出するための手がかりを探そうとする。
この仮想都市には、手のひらサイズの小さな電脳生命体である妖精たちがたくさん暮らしていた。妖精たちはよそ者であるM950Aたちに特に関心を示す様子もない。とにかく話を聞かないと何もできないと判断したM950Aはウサギ耳の妖精に声をかけるが、妖精は銃を持っているM950Aのことを「ATK」の一員ではないかという。聞き慣れない「ATK」という言葉に疑問を持ちながらも妖精と会話をするM950A。妖精は、この街によそ者が迷い込んでくるということ自体を認識できていなかった。妖精が言うには、この街の名前は「ポケットシティ」。M950Aは妖精と話しているうちに、この街の妖精たちは記憶があやふやであることを知る。自分の目的も、名前さえも思い出せない妖精たち。そして、妖精たちはここが電脳世界ではなく現実世界だと思い込んでいた。途方に暮れるM950A。その時、たくさんの妖精たちが街の反対側から逃げてきた。彼女たちは「鉄血」に追われているのだという。鉄血は、妖精たちを捕らえてどこかへ連れていくらしい。なぜこの街に鉄血が現れるのかと驚くM950Aだったが、たとえ場所がどこであっても鉄血を野放しにできないと思い、妖精を守るために数的不利にもかかわらず戦いを挑む。そのM950Aを援護したのは、隊長のK2であった。どうしてここにK2がいるのかわからず混乱するM950Aだったが、この場はK2の指示通り鉄血の本隊を彼女に任せてM950AとThunder、そして協力を申し出たウサギ耳の妖精とで逃げてきた妖精たちを安全な場所に逃がすことにした。鉄血に立ち向かうK2の口調から察すると、K2がこの街に来たのは初めてではなさそうだった。
K2の活躍で街の外まで追い払われた鉄血部隊。その隙に、M950Aたちは妖精を避難場所である通りの奥のバーへと匿っていた。K2から事情を聞き出そうとしたM950Aだったが、そのK2は鉄血を追い返したと同時に行方をくらましていた。ウサギ耳の妖精に呼ばれてバーの中に入るM950AとThunder。バーの内装は、なぜかグリフィン本部のカフェにそっくりだった。そして、妖精たちはM950Aたちを「ATK」と呼んで歓迎する。妖精たちの言う「ATK」、それはこの街を鉄血から守る謎の戦士たちの呼び名であった。ウサギ耳の妖精は、M950AとThunderを「ATK」の新人メンバーだと思っていたのだ。真っ先に危険を嗅ぎつける「キャットウォリアー」、道を切り開く「ブラックライダー」、そして多数の軍勢を操る「ウインドトーカー」。それがこの街を鉄血から守る「ATK」のメンバーであると語る妖精たち。そして、妖精たちは疲れを癒すために音楽を流し始めた。妖精たちにとっての休息や修復は音楽を聴くことなのだという。妖精たちから二つに割れたヘッドホンを渡されたM950AとThunderは、妖精たちに倣って音楽を聴く。流れてくるメロディに安らぎを感じたM950Aは、音楽こそが自分が本当に欲しかったもの、やりたかったことなのだと感じる。Thunderは、この街にグリフィンと鉄血の双方が活動した痕跡を持つことに疑問を感じながらも、戦わずに平穏な日々を過ごせるならここに残ってもいいと言う。しかし、M950AはそのThunderの言葉に反対する。たとえ今のThunderがいなくなって代わりのThunderが配属されても、自分にとっての大切なパートナーは今のThunderだというM950A。そして、音楽は止まった。M950Aは、AEKがポケットシティに残ったのは戦いをやめて平和に暮らしたいからなのでは、と推論を口にする。たとえその生き方がAEKにとって最適であっても、職務を放り出すのは無責任だというM950A。まだバーに残っていたウサギ耳の妖精と話していたM950Aは、妖精たちが音楽の曲名を覚えていないことを知る。曲名という記憶もこの街からは失われているのだ。ウサギ耳の妖精は、M950Aに「外の世界」が実在することを聞き、妖精たちの間で流れる外の世界に関する噂が本当だったのだと知って、自分たちの世界の音楽がまだ外の世界に流れているのかを気にする。M950Aはそれを遮り、AEKの居場所を尋ねる。銃を持つ人形を「ATK」と妖精たちが呼ぶなら、AEKも「ATK」の一員なのではないかと思ったからである。ウサギ耳の妖精はAEKこそが「ブラックライダー」であるという。そして、彼女は「霊園」に向かったことを告げる。「霊園」とは、伝説にあるポケットシティの支配者が眠る場所であり、それがどこにあるかは誰も知らないとのことであった。手がかりが得られたと思ったら雲を掴むような話で、捜索するにも人手が足りないと途方に暮れるM950A。ウサギ耳の妖精は、それなら「キャットウォリアー」に頼めば良いという。ウサギ耳の妖精の視線の先にいたのは、人混みに紛れて様子を伺っているTMPであった。TMPこそが「ATK」の一人「キャットウォリアー」だったのだ。驚くM950A、逃げ出すTMP。M950AとThunderは、TMPを追って街を駆ける。特殊スキルを使用して逃げるTMPを無理に追うことはやめて、挟み撃ちにするためM950AとThunderは二手に分かれた。Thunderに道を塞がれたTMPは別ルートで逃げようとしたが、上で待ち構えていたM950Aに飛び掛かられて取り押さえられてしまった。TMPからAEKの居場所を聞き出そうとするM950A。しかし、TMPもまたAEKを探しに来た側であった。そして、そこに現れたのはK2であった。AEKとTMP、K2の三人の頭文字を取って「ATK」ということだったのだ。K2は、鉄血の部隊が再び現れたことを皆に告げる。K2によると、M950Aたちがポケットシティで姿を隠さずに行動したことで、グリフィンの識別信号を探知した鉄血が活性化したのだという。K2は、事情の説明はさておき今は鉄血部隊を迎撃するようM950Aたちに頼む。K2は、この電脳世界が書き換えやすいことを利用して、グリフィンのデータベースから仮想存在として戦術人形部隊を召喚して戦っていたのだ。
鉄血を撃退した後、M950AはK2にこれまでの事情について説明を要求する。K2が自分とThunderを蚊帳の外にしてTMPやAEKと共に人知れず戦っていたことを知ったM950Aは、そのことに腹を立てていた。K2は、説明は後回しでまずはAEKを見つけ出すことが最優先だという。その後、先行してポケットシティに入り込んでいたTMPはAEKが探していた「霊園」の場所を見つける手がかりを入手したことをK2に報告する。しかし、それはM950Aによって台無しになったのだとTMPは激怒する。TMPは「霊園」の場所を知る二人組の妖精を見つけ出し、その妖精を尾行していたが「霊園」に辿り着く前にM950Aに追いかけられて見失ってしまったのだ。怒りのあまりM950Aに殴り掛かるTMPの前に現れたのは、TMPが探していた妖精のフレイヤとカミリアだった。

02 「Dream On You」

世界が終わらない限り音楽は終わらないのだ

「霊園」の場所を知るこの街唯一の墓守である妖精・フレイヤとカミリアに案内され、M950Aたちは「霊園」へと向かう。その道中で、K2はなぜ自分たちがポケットシティに関わっているかを語り始めた。事の発端は、TMPが修復したレクリエーションルームのデータベースをK2が確認していた時に、グリフィンのデータベースとレクリエーションルームのデータベースが接触したことがきっかけでポケットシティにグリフィンのデータから複製された鉄血人形が出現するようになったことであった。自分たちと接触したことで閉ざされていたポケットシティが危機に陥ったことに責任を感じたK2は、それ以降この世界で鉄血と戦うことになったのだ。そして、K2が事態をグリフィン上層部に報告しなかったのは、自分でも知らないうちに自身のメンタルモデルの中にポケットシティについての記録があったことを不審に思ってのことだった。ポケットシティへの探求心が報告を躊躇わせたのだ。そして、調査の結果、この街にある妖精たちと音楽は50年前の人間たちに愛されていたものだと判明した。K2のメンタルモデルにそれが保存されていたのは、K2の出自によるものではないかと彼女は推測していた(註:「DJMAX」シリーズは韓国産のゲームであり、K2のモデルとなった銃は現在の韓国軍で使用されているためK2のメンタルモデルは2010年代の韓国文化の影響が強い)。
当初はK2と事情を知っているTMPだけがこの世界の鉄血と戦っており、AEKはたまたまこの街に入り込んだことがきっかけで二人を手伝うようになっていた。しかし、この街の鉄血は異様に再生速度が速く、いくら倒してもきりがないためK2はこの件の対処を諦めて上層部へ報告しようと思っていた。その矢先にAEKが姿を消し、そしてM950Aたちもこの街へと現れてしまった。そこでK2たちもやむなくやって来たのだ。
M950Aは、AEKが現実世界を捨ててポケットシティを選んだのだと言うが、TMPはそれを否定する。TMPはAEKのことを信じていた。K2は、この一件を上司であるFN小隊のFALに任せたら独断で行動したAEKが処罰されると危惧していた。M950Aは、自分たちがこの一件でずっとのけ者にされていたことの怒りと不快感を改めてK2にぶつける。K2はそんなM950Aに謝ることしかできなかった。K2は、事態を適切に処理できなかった自分は隊長失格だと落ち込む。K2を庇うTMPに対してもM950Aは怒りを露わにする。TMPの機械弄りの趣味が毎度毎度のトラブルの原因だ、と激しく当たり散らすM950A。そうこうしているうちに、4人は「霊園」へ到着した。
「霊園」は、鉄の門に「ゲームの墓場」という文字が刻まれた広大な墓地であった。AEKを探すM950Aたちだったが、TMPはこの墓地の墓石に刻まれた名前が人名でないことに気付く。4人を案内してきた双子の妖精は、「完全に忘れ去られた時に命のない物も死ぬ」とM950Aたちに告げると去っていく。そして、墓地の地面から土を掘り返す不気味な音が響き、M950AとThunderに渡された割れたヘッドホンが光を放つ。墓石の下から出現した黒い無数の影は、人間のような形になった。TMPは、鉄血に捕らえられた妖精たちは姿を失った思念体となって無念の叫びと共に夜の墓場をさまよい続けるという噂を思い出していた。お化けを怖れるTMPはログアウトしようと言い出したが、K2は全員ログアウトできなくなっていることを告げる。事態を解決するまでポケットシティから出られないことを改めて確認したM950Aたちは、襲いかかる無数の黒い影と戦うのだった。
激しい戦いの末、妖精たちの成れの果てである黒い影こと思念体は撃破された。M950Aはこの墓地の墓石の多くに酷い落書きがされていることに気付き、「何をしたらこんな目に遭うのだろう」と思いながら残りの思念体に銃口を向ける。それを遮ったのは、突然現れたAEKだった。AEKに名前と記憶の手がかりとなる何かを渡された思念体は、まばゆい光と共に妖精としての姿とセラとニーナという自分の名前を取り戻した。AEKは、鉄血に捕らえられた友達であるセラとニーナを助けるために「霊園」へやって来たのだ。AEKは、名前を思い出した妖精は鉄血に捕らえられて記憶を奪われるのだという。そして、ThunderはAEKの言葉からこの世界の妖精たちが楽曲の化身であることに気付いた。Thunderからこの街に残るつもりなのかと尋ねられたAEKは、それを否定する。決して真面目ではないがグリフィン人形としての義務を放棄するほど無責任ではない。それがAEKの生き方だった。しかし、AEKがグリフィン人形としての責務を蔑ろにしていると思い込んでいるM950Aは、AEKが訓練の資料集めと称してポケットシティに行っていたことを咎める。怒りをぶつけるM950Aの言葉を聞き流しながらも、AEKは自身が何者かに「ずっとこの街に残ってほしい」と誘われたことがある、と語った。AEKはその誘いを断ったと言ったが、突然何者かがその会話に割って入った。AEKは、その声が自分に語りかけてきた相手だという。声は、墓石の下から聞こえてきた。そして、「霊園」全体を揺るがす地鳴りと目も眩む輝きと共にその何者かは墓石の下から現れた。銀色の髪と黒い服、そして眼帯を付けた少女であった。彼女は「ミス・フェイル」と名乗る。フェイルは、自分が唯一ポケットシティで名前を持つ者であり、この街の主だという。この街に現れた鉄血は彼女がグリフィンのデータベースを元に作り出したものであり、その目的は妖精の「再教育」だと語るフェイル。フェイルの言う「再教育」とは、妖精の名前を奪うことであった。フェイルは、楽曲の妖精たちから名前と存在意義を奪い、ただ流れるだけの音楽にすることでポケットシティには平穏が保たれるという。M950Aは、自分たちが出会った妖精たちから名前と記憶を奪ったフェイルに怒りを向ける。しかし、フェイルは現実こそが幻であり、名前も記憶もなくしてしまえば現実の醜いしがらみ全てから解放されるのだと語る。フェイルの言う幸せをただの押し付けだと断じたAEK、TMP、K2はフェイルに銃を向ける。それでも思考停止と停滞こそが幸せである、とするフェイルは動じない。Thunderの危惧通り、フェイルは妖精たちの記憶を操作したのと同様に戦術人形のメンタルモデルを切り離し操作することが可能であった。戦術人形たちのログアウトを阻止していたのもフェイルの能力によるものだった。フェイルが手に持った黒い星型のギターをかき鳴らした途端、「霊園」は光に包まれたのだった。
意識を失ったThunderが目を覚ますと、そこは小隊の宿舎だった。また例のごとくM950Aが寝坊した隊員たちを起こしに現れたのだ。AEKはレクリエーションルームでサボっているという。AEKがサボっていることを知っていて見逃したThunderは、M950Aにそのことを咎めないのかと尋ねるが、M950AはパートナーであるThunderを嫌いにはならないという。Thunderも、自分のようなめんどくさい性格の人形をずっと信じてくれるM950Aのことが好きだと告げる。M950AもThunderのことが好きだと告げるが、自分自身のことは嫌っていると言う。その時、AEKの声が響く。これはフェイルの精神攻撃だったのだ。Thunderは、自己否定をするM950Aのことを偽物だと断じる。Thunderは、いつも自分が正しいと信じているM950Aのことが好きだった。だから自己否定をするM950Aは本物ではないのだ、というThunder。M950Aは、たとえこれが夢でも最後まで一緒にいて欲しいと懇願する。Thunderは、夢の世界のM950Aと共に襲ってきた鉄血の部隊を倒した。そして、夢の世界からは鉄血もグリフィンもいなくなり、二人だけが残った。もう誰も不器用で口下手なThunderを排斥しないこの世界に残ろうというM950Aだったが、Thunderはそれを拒否する。たとえ嫌なことがあっても他者がいる世界を望むThunder。Thunderの願いは、M950Aや他の仲間に守られるだけでなく並び立って歩くことだった。Thunderの決意を聞いたM950Aは「合格ね」と言い、夢の世界は崩壊を始めた。夢から解き放たれたThunderは、偽物だと思っていた夢の中のM950Aが本物だったことに気付く。自信満々に振る舞っていたM950Aが内面に自己嫌悪を抱えており、グリフィン人形としての使命以外の生きがいを求めていたことにThunderは気付けなかったのだ。Thunderが好きだった自分はただの虚勢にすぎなかったことを告げて闇に消えていくM950A。必死に呼び戻そうとするThunderだったが、M950AはThunderに別れの言葉を残してフェイルの作り出した闇に囚われたのだった。
一方、AEKは夢の世界で必死にフェイルと戦っていた。なんとかしてAEKを取り込もうとするフェイルだが、フェイルとは音楽観も性格も合わないAEKはフェイルをひたすら否定する。そこに先に悪夢から脱出したK2たちが助けに現れた。妖精のセラとニーナの助力によって脱出したK2とTMPはAEKの夢の世界に入り込んだのだ。AEKにK2とTMPが加わり多勢に無勢かと思われたフェイルだったが、既にM950Aを捕らえていたことでAEKに固執するのを止め、夢の世界からAEKたちを解放すると再び現れることを予告して姿を消した。夢から脱出したK2たちは、M950AとThunderの行方がわからないことを気にしながらも、フェイルを打倒するための策を巡らせる。どうやらTMPにはこの状況を打開するための作戦があるようだった。AEKはM950AとThunderを探すことになり、K2はセラたちと共にフェイルが出現を予告した市街地中心へ向かう。セラは、街の広場にフェイル打倒のために必要なある物を用意しているという。
K2たちが到着した市街地中心のブラック広場では、フェイルが手下の思念体たちを観衆のサクラとして並べながら演説を行っていた。秩序と道徳の破壊を訴えるフェイルに歓声を送る思念体たち。そして、フェイルは以前M950Aたちを助けたウサギ耳の妖精を捕らえていた。ウサギ耳の妖精に屈服を要求するフェイル。そこに現れたK2はフェイルの演説を遮るとある音楽を流す。それはフェイルが妖精たちから奪った曲だった。その曲は、セラとニーナのための歌。彼女の名前と記憶に紐づけられた曲であった。K2は、他の妖精たちにも名前と記憶、そして自分の歌があるのだと宣言する。狼狽えたフェイルは、自分が妖精たちから記憶と名前を奪ったのは妖精たちを守るためだと言う。しかし、それを一方的な所有欲だと切り捨てたK2はフェイルへ決戦を挑む。それに対して、フェイルは現実世界の惨状を引き合いに出し、自分たちの街まで現実世界に巻き込むのか、とK2を非難する。K2の召喚したグリフィンの軍勢によりいくらかのダメージを受けたフェイルだったが、次の手段として用意していた「新しい仲間」を紹介する。それは、記憶を奪われ漆黒のアイドル衣装を纏ったM950Aこと「フォーリン★エンジェル」だった。フェイルの手下となったM950Aは、これまでの自分を捨てて新しい自分になるのだ、と歌い続ける。グリフィン人形としての使命感や周囲の期待のために規律に厳しい風紀委員を演じていたM950Aの本当の願いを叶えられたのは自分だけだ、と勝ち誇るフェイル。歌い続けるM950AにはK2の説得も届かない。フェイルは、M950Aを追い詰めたのはK2たちだと言い、責任や義務に縛られることは愚かだとしてK2たちも仲間になるよう誘う。ウサギ耳の妖精は、M950Aの奪われた記憶を取り戻そうと彼女が歌うステージへ向かった。

その頃、「霊園」で目を覚ましたThunderは、「フォーリン★エンジェル」と化したM950Aの歌声を聞いていた。もうM950Aは自分たちのところに戻ってこない、と諦めたThunderだったが、そこに現れた妖精の墓守・フレイヤとカミリアはまだM950Aを取り戻すことができると告げる。Thunderは、自分がM950Aの本当の心を理解できずに突き放したことで彼女を闇に堕としてしまったことを悔いており、M950Aに再び向き合うことはできないと思っていた。この世界と共に闇に呑まれてしまおうと思い詰めるThunderだったが、そこに現れたのは黒いバイクに乗ったAEKだった。「ブラックライダー」としての姿になったAEKは、M950Aを取り戻すための戦いにThunderを誘う。躊躇うThunderだったが、AEKはM950AがああなったのはThunderの依存心のせいであり今度は違う向き合い方をするべきだと諭す。AEKも、今の小隊のメンバーをつまらない相手だと見下していたが、本当は面白く自分より立派な面々であり、自分の向き合い方が悪かったのだと自省していたのだ。AEKは、本当にM950Aが求めていたものを与えよう、と改めてThunderを誘う。Thunderは決意を固め、AEKのバイクの後部へと乗るのだった。AEKはフレイヤとカミリアに、自分たちを「霊園」に案内したのはフェイルを実体化させておびき出すためだったのではないかと尋ねる。フレイヤたちは、記憶や自身の過去を奪われてもこの世界が変質してしまったことを覚えており、外部の手を借りることで元に戻すことができるのではないかと考えていたのだ。
まだM950Aと対面することに怯えるThunder。AEKは、直接会えばどうにでもなるとThunderを後押しする。

フェイルとM950Aが歌うステージでは次の曲が流れようとしていた。しかし、流れてきたのは違う曲だった。ウサギ耳の妖精は自分の名前が「スイ」であることを思い出し、そして自分の歌を思い出したのだ。そして、ポケットシティが元々はこんな街ではなかったことも思い出していた。記憶を奪った自分に恨みや憎しみをぶつけるよう促すフェイルだったが、スイは自分には他者への恨みや憎しみはなく、ただ歌うことの喜びだけがある、とフェイルの言葉を否定する。フェイルは、スイに名前と意味を与えた人間たちはもうスイのことを忘れ去ったのだとスイの喜びを否定するが、スイは例えそうだとしても自分で選んだ歌う喜びは変わらないと言う。そして、M950Aにもフェイルに与えられた役割ではなく自分自身で存在意義を見つけるよう呼び掛ける。K2は自分のダミーを召喚し、スイの言葉に何かを思い出して棒立ちになったM950Aを取り返そうとするが、それを邪魔しようとするフェイル。しかし、スイの手助けでフェイルはM950AをK2のダミーに奪われてしまう。激昂したフェイルは、スイを握り潰して吸収してしまう。名前がある存在はこの街には自分だけでいいと言うフェイルに対して、妖精たちの名前と記憶を取り戻すためK2はグリフィンの軍勢を召喚して立ち向かうのだった。
数時間続いた激しい戦いで、双方とも激しく損耗していた。手下である思念体や捕まえた妖精たちを吸収することで攻撃に耐えていたフェイルだったが、それも限界になっていた。もはやフェイルはこの街でたった一人の住人となっていたのだ。もうフェイルの音楽を聴く者はいない、と投降を呼び掛けるK2だが、フェイルは自分が音楽を奏でればきっと聴衆は現れる、とギターを弾く。そこに現れたのは、K2のダミーに連れ去られたはずのM950Aだった。自分が与えた歌をM950Aが歌えば自分の力を取り戻せる、と喜ぶフェイル。しかし、M950Aが歌ったのは違う曲だった。そして、M950Aの隣にいるのはThunder。Thunderは、この曲はM950Aが自ら選んだのだという。M950Aの記憶が戻るはずはない、と困惑するフェイルだったが、M950Aは記憶を取り戻したわけではなかった。K2のダミーに連れ去られたM950Aは、その後Thunderと共にポケットシティ各所を散策して回っていたのだ。そうして新しい思い出を作ったことで、M950Aはその旅のイメージとして曲を選んだ。それがこの曲だった。
一度はM950Aを捨てたThunderが再び二人の思い出を作ったことを虫が良過ぎると非難するフェイル。しかし、ThunderはM950Aの記憶が奪われたことで関係をやり直すことができたのだという。一晩で作った友人関係なんかにポケットシティを守ることに50年を費やしてきた自分が負けるはずがない、と負け惜しみを言うフェイルだったが、K2はその50年間で他者の希望を食い物にし続けたフェイルに味方をする者はこの街にはいない、と切り捨てる。この世界は50年前に人間に見捨てられたのだと恨み言を言い、人間に捨てられ新しい物が生まれなくなった世界を守るには希望を奪うことで平穏を保つしかなかったと訴えるフェイル。しかし、AEKと共に現れたTMPは、この世界とここに残された音楽はまだ人間たちに愛されているのだと告げる。ボロボロになってもまだ臨戦態勢を取るフェイルに対して戦いに来たわけではないと説明したTMPは、ある物をフェイルに渡す。それは、フェイルたちが作られた時代の携帯ゲーム機だった。TMPが分析したポケットシティの正体、それは活性化されたある音楽ゲームのセーブデータだったのだ。しかし、そのセーブデータは一部が破損していた。それが原因でフェイルは本来のあり方から外れた存在になっていたのだという。フェイルのデータベースの破損はかつての戦争によるものだった。戦争によってこのセーブデータが保存されたデータベースがある都市は放棄されていたのだ。そこに発掘作業の警備任務のためにグリフィンの部隊がやって来て、放棄されたデータベースを修復した。それが全てのはじまりだった。戦争が自分たちと人間の繋がりを断ち切ったことを悲しむフェイル。TMPは、フェイルにデータの修復を申し出る。自分は壊れていない、間違った存在なんかじゃない、と一度は修復を拒んだフェイルだったが、外の世界を見てみたくはないかというAEKの誘いを受け入れ、TMPに渡されたゲーム機のスイッチを入れる。そこに入っていたのは、グリフィンの指揮官からの贈り物の曲「Glory Day」。この曲こそがフェイルの欠けた記憶だった。そして、ゲーム機を通じて外の世界と繋がったフェイルは、自分たちが外界から隔絶された50年の間、人間の世界では大災害や戦争(註:「ドールズフロントライン」の作中で起きた北蘭島事件や第三次世界大戦など)といった不幸な出来事が起こり続けていたこと、それでも人間は生き続け、そして音楽を愛していたことを知る。忘れ去られていたと思っていた50年前のゲーム音楽である自分たちのことを、人間は忘れないでいてくれた。そのことでフェイルの心は救われたのだ。希望を取り戻したフェイルことエル・フェイルは、本来の姿である「エル・クレア」へと変わった。クレアは、もっと広い世界を見るために外へと出ることを望む。

それから一ヶ月後。K2たちを指揮していたFN小隊の副隊長Five-sevenは、K2からポケットシティでの事件の顛末について通信による報告を受けていた。あまりに非現実的な出来事のため、指揮官への報告を躊躇うFive-seven。報告のついでに雑談を楽しんでいたFive-sevenに、K2はグリフィン内で放送されている自分たちの音楽番組を見ているかを尋ねる。Five-sevenは、いつもリアルタイムで見ている、と笑いながらK2に答えるのだった。
一方その頃、臨時編成だったはずのK2たちの小隊は、「ATK小隊」として正式に編成されていた。そして、小隊にはデータベースからメンタルモデルを形成され戦術人形の身体を得たクレアとフェイル、妖精としてドローンの身体を得たスイやセラとニーナ、フレイヤとカミリアも加わっていた。K2が言っていた音楽番組とは、ATK小隊にクレアたちを加えたバンドによるものであった。慌ただしく収録準備を進めるK2たち。AEKの手際の悪さを責めるM950Aだったが、かつてのようないがみ合いではなく認め合う者同士の軽口であった。以前はメンバーに馴染めなかったThunderや人見知りで引っ込み思案なTMPも、その軽口の叩き合いにすんなり入ってくるぐらい仲良くなっている。クレアは、平穏なゲーム内の世界を離れて現実世界で生きていく覚悟を持ってグリフィンへと加わっていた。Thunderは、そんなクレアを歓迎する。一方のフェイルは、ATK小隊の演奏はまだまだ自分に及ばないとしてバンドに加わることは拒否したが、もっと上手くなったら一緒にやってもいいと言うのだった。スイたち妖精も駆けつけて、いよいよ音楽番組の収録が始まる。
世界が終わらない限り人の営みは終わらない。そして人が生き続けるのなら、そこには必ず音楽があるのだ。

ドールズフロントライン×GUNSLINGER GIRL 「夢中劇」

ジャン以外との接触を拒否して閉じた世界の孤独な王となっていたリコは、指揮官たちと出会ったことで外へ出ることを決めた

〈現在〉
指揮官とカリーナがあるデータベースサーバーへの入り口を見つけるために手がかりとなる合唱曲「ベートーヴェン 交響曲第9番 第4楽章『歓喜の歌』」の音声データを解析し始めてからおよそ一週間。電子戦に長けた後方幕僚や戦術人形は現在別の任務で出払っており、二人が代わりに解析を行うことになったのだが、まったくといっていいほど打開策が見つからなかった。

〈一週間前〉
スプリングフィールドのカフェで休憩していた指揮官は、同じように休憩していた戦術人形たちから「メンタルイーター」と呼ばれる電脳空間の怪奇にまつわる噂話を聞かされていた。「歌声と共に現れる少女の姿をした怪物に捕らえられた人形は、メンタルモデルを食われて抜け殻になってしまう」というのがその内容であった。
たわいもない都市伝説だと思い聞き流していた指揮官だったが、それからしばらく後に噂話をしていた人形たちの一人であったDP-12から緊急連絡が入った。ただの怪談にすぎないと思っていたメンタルイーターにカルカノ姉妹、SPAS-12、そしてS.A.T.8が襲われ、全員が意識不明になってしまったというのだ。修復室で調査したところによると、この4人は電脳空間へ潜って遊んでいたところ、正体不明のアドレスからハッキングを受けてメンタルモデルを抜き取られ機体が停止してしまったということだった。I.O.P.社の技術者による解析でも解除方法がわからず、手がかりは攻撃者のIPアドレスだけであった。そのアドレス元であるデータベースサーバーへ侵入しようと悪戦苦闘する指揮官とカリーナであったが、どうにもならずに時間が過ぎていった。そして一週間が経った。

〈現在〉
いったん作業を止めて自室で休憩していた指揮官は、DP-12がメンタルイーターについて語っていた中の「歌声」という言葉を思い出していた。そこから打開策をひらめいた指揮官は、カリーナにそのIPアドレスから発見された合唱曲の音声データから違和感があったコーラスのパートだけを抜き出し、その周波数を数字に変換するように要請する。そこにはアドレスの解析コードが隠されていた。これは、人形のデータ受信方式に合わせて作られた解析コードであり、人間には見つけにくい構造だったのだ。そこからアドレスを解析したカリーナは、ようやくデータベースサーバーの入り口を発見することができた。カリーナによると、かなり古いもので長い間更新されていないサーバーだという。データベースサーバーの名前は「社会福祉公社」。ログインしようとする指揮官だったが、新規のログインアカウントは作成できないため既存のアカウントを使用しなければならず、また人間がログインするには仮想空間を視認するためのゴーグルが必要であった。準備を終えた指揮官は、その既存アカウントを確認する。アカウントには「ジョゼ」「ジャン」「マルコー」等、イタリア人の男性名が並んでいた。指揮官は、並んでいる中の最初にあった「ジョゼ」のアカウントにログインする。こうして、カリーナのサポートを受けながら指揮官はこの「社会福祉公社」サーバーの探索を開始するのだった。

暗闇の中、手探りで鉄柵を開くと、その向こう側には晴れやかな庭園が広がっていた。そして、花畑の中で歌っている一人の少女の姿があった。その少女は、指揮官の下へ嬉しそうに駆け寄ってくる。「ジョゼさん! 必ず帰ってきてくれると信じてました!」そう言った少女の名はヘンリエッタ。ジョゼという人物に強い好意を示す彼女からこの場所についての情報を引き出すため、指揮官は「ジョゼ」の役割を演じざるを得なくなっていた。
指揮官はカリーナと連絡を取り、彼女がこのサーバーに保管されている仮想人格データであることを知る。カリーナの報告によるとこのヘンリエッタにデータの流れが集中しているとのことで、この事件の犯人はヘンリエッタではないかと指揮官は疑っていた。しかし、カリーナはこんな女の子が犯人とは思えないしその動機もうかがえないと言い、引き続きジョゼを演じてヘンリエッタから情報を得るよう指揮官に要請した。
ヘンリエッタとのお茶会の中で四苦八苦しながらなんとか話を合わせていた指揮官は、ここには他にも少女たちがいることを知る。他の少女たちは遊びに行ってしまい、この庭園にはいないのだと言う。指揮官は、ここに知らない女の子たちが来なかったかをヘンリエッタに尋ねる。ヘンリエッタは見知らぬ少女たちを最近この敷地で見かけたと言い、「五共和国派(註:社会福祉公社と敵対する極右集団)のスパイですか?」と険しい表情を見せる。指揮官は、「仲間だ」と答えるが、それを聞いたヘンリエッタは沈痛な表情になった。その少女がジョゼの新しい「フラテッロ」(註:イタリア語で兄弟の意味、ここでは担当官と義体のペアを指す)だと思い、自分は見放されたのだと思ったのだ。指揮官は、ヘンリエッタはこのサーバーが放棄されたのを知らず待ち続けていたのだと思い、咄嗟に「ヘンリエッタに会いに戻ってきた」と答えた。すると、ヘンリエッタは途端に上機嫌になった。ヘンリエッタの言う「兄弟」の意味がわからず一瞬言葉に詰まる指揮官に、ヘンリエッタは自分たち義体とジョゼたち担当官は「兄弟〈フラテッロ〉」であり義体は命をかけて担当官を守りその命令を遂行するのだと改めて説明する。ヘンリエッタの言っていることの意味がわからず困惑した指揮官は、カリーナに状況の説明を求める。データベース内でこのサーバーの持ち主の情報について調べていたカリーナは、発見したそれらの情報を指揮官に送信した。それによると、「社会福祉公社」とは公的福祉組織を装った政府の特殊機関であり、事故などで死を待つばかりになった少女たちを改造して「義体」と呼ばれる戦闘工作員に仕立て、「担当官」と呼ばれる特殊工作員とペアを組ませて非合法任務を行っていたのだという。ヘンリエッタはその義体であり、ジョゼはヘンリエッタの担当官であった。おおまかな事情を理解した指揮官であったが、だとすると捕らえられた人形たちのメンタルモデルはどうなっているのか。指揮官は、ジョゼとしてヘンリエッタに接しながら情報を集めるしかないと改めて決意した。
自分たちの絆を忘れるなんて、と詰め寄るヘンリエッタの追及を「先の任務で疲れていて忘れていた」とごまかしてやり過ごした指揮官は、その見知らぬ少女たちは新任の義体だから会わせてほしいとヘンリエッタに頼み込む。渋るヘンリエッタの視線に仄暗い嫉妬の影を見た指揮官は、カリーナから送付された資料に「義体は”条件付け”と呼ばれる洗脳で担当官に絶対服従するようにされている」という記述があったものの、それには個人差がありそうだと判断した。指揮官が「新任の義体が前回の任務の情報を持っている」と説明したことでようやく納得したヘンリエッタは、義体の少女たちの遊び場として設定された建物「ヴィータ」に彼女たちがいることを教える。ヘンリエッタによると、ヴィータとは義体の少女たちが自由に設定した通りの仮想空間を作ることができる場所らしい。他の義体の少女たちである「アンジェリカ」「リコ」「トリエラ」「クラエス」は、そのヴィータの中にいると言う。ヘンリエッタはそこに行かないのかと指揮官は尋ねたが、恥ずかしそうにうずくまったヘンリエッタは「ジョゼさんと二人で行きたかったんです」と答える。そして、ヘンリエッタは見知らぬ少女たちを探すためにも共にヴィータへ行こうと誘う。一瞬指揮官が躊躇うとヘンリエッタは途端に意気消沈してしまったため、指揮官はヘンリエッタと共にヴィータへ向かうことを決めた。笑顔で指揮官の手を引くヘンリエッタを見ながら、指揮官はこの仮想人格の少女たちはフィクションの存在なのか、それとも過去に起きた出来事の記録をトレースしたものなのか、と考えながらもヘンリエッタへの庇護欲が強くなっているのを感じていた。+

ヘンリエッタと共にヴィータへと入った指揮官。そこはまったく陽光の差し込まない真っ暗な部屋だった。指揮官はカリーナに通信を送り現状の説明を求める。カリーナによると、この空間は観客参加型の演劇に近いものであるが設定や配役はエリアごとに既に決められている、とのことであった。道中の会話の中で、アンジェリカの担当官であるマルコーのことを知らなかった指揮官を怪訝に思うヘンリエッタだったが、指揮官はなんとかごまかそうとする。そして、暗闇の中で指揮官の手を引きながら「歓喜の歌」を歌うヘンリエッタ。流星雨の夜、義体の少女たちみんなと合唱した思い出の歌(註:「GUNSLINGER GIRL」原作第2巻参照)だと言う。この歌は、社会福祉公社のデータサーバーのアドレスを隠すのに使われていた音楽データにも使われていた曲だった。そして、ヘンリエッタの案内でアンジェリカのヴィータへと辿り着いた指揮官は、その中へと入るのだった。

アンジェリカのヴィータの中は、第三次世界大戦が起きる前のローマの街並みだった。そして、朗らかに声をかけてきたのは10代前半程度の外見年齢に縮んではいたがメンタルイーターに捕らえられたはずのカルカノM1891ことカノだった。外見だけでなく精神年齢も子供相応になっていたカノは、指揮官のことをマルコーと呼ぶ。この場所では、指揮官に与えられた配役がマルコーであった。そして、カノは担当官マルコーのフラテッロである義体という配役であった。そして、直前まで一緒にいたはずのヘンリエッタは声だけで姿がない。通信してきたカリーナによると、配役を割り当てられなかった人物はヴィータ内では存在できないとのことであった。指揮官の手伝いができないことで落ち込むヘンリエッタを慰めた指揮官は、今度はマルコーを演じなければならなくなった。一方のカノは完全に記憶を書き換えられているのか、自分をマルコーとしか認識していない。指揮官は、人形たちのメンタルモデルが本体に戻ってこないのはこうして記憶を改竄されているからではないかと考えていた。

義体の日課である射撃訓練を終えたカノは、訓練成績が良かったことへのご褒美を要求してくる。それは、「パスタの国の王子様」という絵本の続巻を買ってあげることであった。ヴィータ内部の時間を一時停止して指揮官は資料を検索し、その「パスタの国の王子様」とはかつて担当官のマルコーがアンジェリカのために作った童話であることを知った。その成り立ちから書店で買える本ではないと思った指揮官はヘンリエッタに尋ねるが、ヘンリエッタは「ヴィータの中なら何でも起こり得ると思います」と答える。再度時間を進めた指揮官は、カノの求めに応じて街へその絵本を買いに行くことにした。指揮官は、このヴィータの本来の主であるアンジェリカが未だ物語に登場していないことを不審に思い、再度時間を一時停止してサーバー内の情報を検索する。しかし、本来アンジェリカの名前があるはずの箇所にはカノの名前が登録されておりアンジェリカという義体の存在は確認できなかった。困惑する指揮官だが、その過程で社会福祉公社と義体についての詳細な情報を得ることができた。少女を改造し「条件付け」と呼ばれる薬物洗脳でコントロールする義体は旧時代の技術ということもあり、戦術人形に比べると戦力は大きく劣っている。身分を隠して動く特務機関に向いてはいるが、人道的にも誉められたものではないと指揮官は眉を顰めるのだった。そこにカリーナからの通信が入ってきた。カリーナが調べたところによると、ヴィータのルールは相応の権限を持った者にしか書き換えることができないという。外部からの干渉ができない以上、このヴィータではアンジェリカを探し出し、物語を規定のルール通りに進めてエンディングまで辿り着くことでしか事態を解決できないのだ。そして、カリーナは本当の主役であるアンジェリカは必ず物語のどこかで登場すると言う。指揮官は、カリーナの言う通りに物語を進めることにした。
目的の絵本を買ってもらったカノは、歩きながら絵本を読みふけっていた。すると、曲がり角から現れた犬を連れた少女にぶつかってしまう。カノは謝りながら転んだ少女を助け起こす。その少女を見たヘンリエッタは、指揮官にその少女がアンジェリカであることを告げる。指揮官は、アンジェリカが義体ではなく通行人の少女として配役されていることに疑問を感じていた。その時、帰ろうとするカノを少女が呼び止める。カノが持っている絵本が気になっていたのだ。カノに渡されて絵本を読む少女は、その内容になぜか懐かしさを感じていた。その様子を見たヘンリエッタは、アンジェリカのために書かれた物語を彼女が覚えていないことを怪訝に思っていた。ヘンリエッタの言葉から察するに、マルコーとアンジェリカの間には何かがあったようだが(註:原作において記憶障害を起こしたアンジェリカはそのことに罪悪感を持ったマルコーから距離を置かれるようになった)。
すると、突然車のブレーキ音が聞こえ、それと同時に多くの足音が響く。カノは五共和国派のテロリストが襲撃してきたのだと告げると、即座に攻撃を開始していた。そして、敵の銃撃から指揮官を咄嗟に助けたのはアンジェリカだった。ただの少女があれだけの反応速度と力を発揮することはあり得ない。怯えながら自分の手を見ていたアンジェリカは、指揮官を「マルコーさん」と呼んだ。これまでの普通の少女といった様子が消え、兵士の顔になったアンジェリカは、指揮官に銃を渡すよう求める。戦う決意を口にしたアンジェリカは指揮官から銃を受け取ると、流れるような動きでカノの援護に回った。ヘンリエッタは、今の彼女こそが本当のアンジェリカであると言う。

五共和国派のテロリストたちを掃討したカノとアンジェリカ。アンジェリカは、自分は何か大事なことを忘れているのではないかと指揮官に問う。ヘンリエッタは、「義体が担当官を忘れるわけにはいきません」と指揮官にアンジェリカのことを全て教えるよう促す。しかし、指揮官は「私たちは初めて会ったんだ」と言うと、アンジェリカの手から銃を取り上げる。そして、事後処理にやってきた警察官たちにアンジェリカを託した。去り際に助けてくれた礼を言いに来たカノに、アンジェリカは「パスタの国の王子様」の絵本を譲ってくれるよう頼む。カノもそれを快諾し、アンジェリカに絵本を渡した。アンジェリカに再会を約束したカノは、指揮官と共に社会福祉公社の車に乗って去っていった。すると、周囲が白くなっていく。この物語はエンディングを迎えたのだ。

指揮官は、物語の途中でサーバーの内部で「マルコー」という人物が残していった記録を見つけていた。このヴィータでは彼の意向により、アンジェリカは両親に愛されている普通の少女として設定されていた。現実では両親に裏切られて義体となり(註:アンジェリカは両親による保険金殺人未遂の犠牲者であった)、義体になってからも自分に見捨てられたアンジェリカだったが、仮想世界では家族に愛されて人として幸せになってほしいという願いを込めてのことであった。だから指揮官はアンジェリカに全てを語らず、義体であることを告げなかったのだ。

物語が終わり指揮官とヘンリエッタが戻ってきた時には、庭園は既に夕暮れから夜へと移っていた。一緒に戻ってきたアンジェリカとカノは疲れて眠っている。ヘンリエッタは、アンジェリカのヴィータでの物語が意外だったと言う。ヘンリエッタにとって、義体が担当官のことを忘れるのは裏切りだとのことだった。しかし、指揮官はその物語を望んだのはアンジェリカの担当官だったマルコーの意思だったと告げる。アンジェリカを見捨てたことを悔やんでいたマルコーは、自分には彼女を幸せにする資格がないと思っていたのだ。それに対し、ヘンリエッタは「そんなものは受け入れられません」と語気を強める。条件付けで作られた感情に従って自分を犠牲にする必要はないと言う指揮官に対して、ジョゼへの感情は条件付けではない、と言葉を荒げて立ち上がるヘンリエッタ。しかし、すぐに感情的になったことを恥じて座り込んでしまった。ヘンリエッタは、自分がジョゼの記憶を失ったとしてもその記憶を取り戻させてほしいと懇願する。その時、ヘンリエッタが立ち上がった際の物音でアンジェリカとカノが目を覚ました。カノは、ヴィータ内での幼い少女の姿ではなく元の成人女性の姿に戻っていた。通信してきたカリーナは、カノが余計なことを言ってヘンリエッタたちに怪しまれないよう暗号通信で会話するよう助言する。カノはやや納得できない感じではあるが同意した。
カノは自分がなぜ今ここにいるかをまるで覚えていなかった。カノは、他のメンタルイーターに捕らえられた人形たちと共に面白そうなサーバーに潜って遊んでいたところ、突然意識を失ってしまい気が付いたら指揮官と共にこの庭園にいたと言う。ヴィータ内でのことは、夢を見たようにおぼろげにしか覚えていなかった。カリーナによると、カノはヴィータ内の物語に配役されてしまったために物語が終わるまで解放されなかったのだという。残り3人の人形たちもおそらく同様の状況にあり、ヘンリエッタたちを悲しませずに穏便に事態を収拾するにはカノと同じように物語を終わらせて役から解放しなければならないとのことであった。指揮官は、カリーナも物語を見たいだけではないかと言うが、カリーナは笑ってごまかしていた。カノはもう戻れる状態であったが、妹のシノや他の人形たちが帰ってくるまでこの庭園で待つと言う。指揮官たちが話している間、ヘンリエッタとアンジェリカも談笑していた。アンジェリカも物語を終えたことで義体としての記憶を取り戻し、マルコーが再びこの庭園に訪れるのを楽しみにしていると話していた。今の身体ならマルコーの足手まといにならず任務を遂行できる、と笑うアンジェリカ(註:義体第一号であったアンジェリカは動作が不安定なため、ほとんど実戦投入されなかった)。ヘンリエッタも、ジョゼが戻ってきたならマルコーもすぐに戻るとアンジェリカを励ます。その会話にカノが入っていき、打ち解けたカノとアンジェリカは楽しそうに「パスタの国の王子様」について語り合う。ヘンリエッタはそっと二人から離れ、指揮官のところへやってきた。ヘンリエッタは、今もまだ指揮官がアンジェリカのヴィータの中で全てを話さずに物語を終えたことを引きずっていた。義体と担当官の絆は何よりも大事なものだと力説するヘンリエッタ。指揮官も、自分が指揮する人形たちが完全に破壊されデータが復元されなかった時はどうするかを思い、ヘンリエッタの言い分にも理があると思い謝罪する。ヘンリエッタも、「ジョゼさんはいつも優しいから」と先の行動が思いやりからのことだと理解して納得する。しかし、ヘンリエッタは「義体には義体の生き方がある」として、担当官に戦いの道具として使われるのが自分たちの幸せなのだと言う。無邪気な顔で断言するヘンリエッタに反論する言葉が見つからない指揮官は、話を切り替えるために次のヴィータへ向かうことを提案する。他の義体に関心を寄せる指揮官を見て出発を渋るヘンリエッタだったが、「任務だから」と言われたことで仕方なく了承し、リコが待つヴィータへの行き方を案内する。しかし、ヘンリエッタは出発を少し先延ばしにしてほしいと懇願する。アンジェリカの件を手伝ったご褒美として、もう少し一緒にいたいと言うのだ。二人で星を眺める中で、ヘンリエッタはジョゼと二人で初めて星空を見た時の思い出を語り始める。その時にジョゼの優しさを初めて感じたのだ、と。何があってもジョゼの傍にいると言うヘンリエッタは、指揮官に肩を預けるとそのまま眠ってしまった。指揮官は、このサーバーが第三次世界大戦時に放棄されたものであったことを思い出し、ヘンリエッタたちはどれだけ長い間担当官の帰りを待っていたのか、そして本物のジョゼたちはどうなってしまったのか、と考えていた。

眠ってしまったヘンリエッタを長椅子に寝かせた指揮官は、次のヴィータへと向かう準備をしていた。一方、カノのメンタルデータを検査していたカリーナは、カノの記憶にはヴィータ内の記憶は残っているがこのサーバーに入った時のデータは消去されていることを確認していた。人形には自身の記憶を削除する権限がないため、このサーバーを操作している誰かがカノの記憶を操作したということである。カリーナは、引き続き調査を続けて新たな手掛かりを掴むしかないと言う。

眠っているヘンリエッタを置いて次のヴィータへと入った指揮官。指揮官は、ジョゼを演じることへの気疲れを感じていた。ヘンリエッタが向ける全幅の信頼と尊敬に応えるのは難しく、一人になった今もついジョゼらしくあろうとしてしまう。前回のことでヴィータへ入るコツをなんとなく掴んだ指揮官は、手探りで暗闇の中に門を見つけてその中へと入っていく。
今度のヴィータは陽光が差し込む午後のホテル内レストラン。そして、声をかけてきたのはメイド服を着た金髪の少女。指揮官は眠り込んでしまった客という設定だった。出会うまでに時間がかかったアンジェリカの時と違い、すぐに目的の義体であるリコが物語内に現れたことに指揮官は驚き、思わず名前を口に出してしまう。名前を呼ばれて驚くリコだったが、ウェイトレスとしての営業スマイルを崩すことはなかった。リコにこれ以上警戒されないように寝ぼけていたことにしてごまかした指揮官は、リコがコーヒーのおかわりを持ってくるまでに状況の整理をしていた。担当官のジャン名義である指揮官に対して特に反応を示さなかったリコは、義体としての記憶をアンジェリカ同様に喪失していると思われた。そして、前回は早々にカノが登場したが今回はグリフィンの人形がまだ物語に登場していない。誰がどのような役で現れるのか、指揮官がそう考えた矢先、窓の外に軍楽隊の扮装をしたSPASが現れ、指揮官を見て微笑むと去っていった。後を追おうとした指揮官だったが、サービスワゴンを押したリコが現れたため追跡を断念。まずはリコと話をしようと思った。
リコから受け取ったコーヒーを飲んでくつろぐ指揮官だったが、その姿を見ていたリコの目に一瞬異様な表情が宿ったのを見た指揮官は、リコに何があったのかを尋ねる。するとリコは、「この光景が何だか本物のような気がして」と言う。奇妙なことを言った自覚があったのか一度は謝ったリコだが、意を決したように指揮官に「お客様のお名前はジャンさんですか?」と尋ねた。リコが義体としての記憶を持っているのではないかと思った指揮官は、その問いに答えることを逡巡するが、リコはその様子を肯定と捉える。観念した指揮官は自分が「ジャン」であると名乗るが、それに対してリコはそういう予感がしていたのだと答え、これまでも予感がすると数日後にはそれが実現していたのだと語る。そして、指揮官がリコの名前を呼んだのも予感に導かれたのではないか、と尋ねる。指揮官は話を合わせるため「そうかもしれない」と答えた。その答えに、やっと自分と同じような相手に出会えたことを喜ぶリコ。指揮官は、リコに「予感」は予知能力のようなものなのかと尋ねるが、リコは予知というよりは願ったことが必ず実現するのに近いのだと答える。しかしリコは、それは自分の今の人生が幸福過ぎて、願いが何でもかなっていると錯覚しているのではないか、とも言うのだった。「ジャンさんに今の自分がどれだけ幸せか話したい」と言うリコ。それを聞きたいという指揮官に、「ジャンさんなら絶対わかってくれると思っていた」と言うリコは、自分の生活について話しはじめた。
優しい母親、学校の合間に勤めるアルバイトでの優しい上司たち、通勤時に眺める美しい街並み。習い事のバイオリンでは指導は厳しいけれど才能を認められていること。何もかもが楽しい日々だ、と。自分が恵まれ過ぎていて、こんな生活をしていていいのかと不安を漏らすリコに、指揮官は「君が周りの人たちに愛されているからだ」と言う。しかし、リコは納得できない様子で、この生活が本物ではないのではないかと言うのだった。普通の生活こそがいちばん大事なのだと説く指揮官だったが、リコは、この生活すべてが嘘で、ある日それが突然失われることが怖いのだと言う。指揮官が「この幸せが失われることはない」と言ったことにひとまず安堵したリコは、サービスワゴンを押しながら戻っていく。それを見届けた指揮官は、カリーナに通信を送る。カリーナは、あのリコの生活はデータベースにあったリコの過去とはまったく違うと言う(註:リコは先天性全身麻痺の患者であり、義体に改造されるまで自力でベッドから出たことがなかった)。指揮官はカリーナにSPASを見なかったかと問うが、カリーナの側ではSPASを観測できていなかった。そして、このホテルのレストランは指揮官が指摘したように異常な状態であった。窓の外を行き交う車や通行人は同じものが延々と行き来するだけの書き割り背景のようなものだった。この仮想世界は、リコが通るルート以外は全て未完成であり、リコの記憶にあるものだけで構築されていた。仮想空間内に更に仮想空間がある、という状態に近いらしい。カリーナはそれを「夢」に喩えていた。そして、この入れ子構造の仮想空間はリコの権限ではなく戦術人形のメンタルモデルを使用した演算により構成されているため、グリフィンからでも干渉できるのだと言う。カリーナは、指揮官が話したリコもその演算で作られたもので、リコが夢の中で違う自分に幸せな生活を送らせているようなものだと推測していた。指揮官は、その説明であのリコが「この生活に現実味を感じない」としきりに言っていた理由がわかった。
カリーナは、グリフィン側から戦術人形のメンタルモデルの演算を止めることでリコの見ている夢を停止させると言う。リコに同情する指揮官だったが、カリーナはどのみち人形たちを連れ帰るなら同じ結果になると言い、指揮官もそれを理解してカリーナに実行許可を出した。すると周囲は暗転し、ヴィータに入った時と同様に何も見えず足元に地面の感覚もなく、ただ無限に落下するような感覚が続く。そして、丸一日落ち続けたような感覚の最後に、指揮官は地面に叩きつけられたような激痛に襲われた。視界を失った指揮官の周囲では、銃声と爆発音だけがひっきりなしに聞こえてきた。それから少し後、視力を取り戻した指揮官の目に映ったのは、さっきまでリコと話していたあのホテルであった。しかし、激しい銃撃と爆発で見る影もない廃墟になり果てている。
呆然としている指揮官を掴んで素早く物陰に放り投げたのは、行方がわからなくなっていたはずのSPASであった。SPASはこの仮想空間のことを「自身への懲罰として行われている長時間の電子模擬戦」と勘違いしており、指揮官につまみ食いのことを平謝りしてこの空間から出してくれるよう懇願する。しかし指揮官から事情を説明されたSPASは、ようやく自分が何者かに捕らえられていたことを知る。その時、カリーナから通信が入った。カリーナは外部からこの空間を構成するメンタルモデルの演算を解除しようとしたがうまくいかなかったのだと言う。カリーナはSPASにこの空間に入った時のことを覚えているかを尋ねたが、アンジェリカのヴィータに囚われていたカノと同様にSPASもそのことは覚えていなかった。カリーナは、この仮想空間がおかしなことになっているのは「夢」として構成された空間が中途半端に解除されたことでリコが混乱しているからだと言う。指揮官とカリーナが通信をしている最中、指揮官が何者かに狙われていることを悟ったSPASは慌てて指揮官を盾でガードする。指揮官を対物ライフルで狙撃してきたのはリコだった。SPASを五共和国派のテロリストと誤認しているリコは、「どうして、ジャンさんが敵といっしょにいるんですか?」と言う。その様子はレストランで会話していた時の純粋な少女といった印象ではなく、資料に載っていたのと同じ冷徹な兵士としてのリコだった。リコは、これまでの幸せな日々が嘘であることを理解し、「私にとっての幸せはジャンさんの望みを実現するために全ての敵を消し去ることです」と言いながらSPASを撃つ。盾でなんとかその攻撃を凌いだSPASだったが、自分はジャンに試されていると思い込んでいるリコはSPASを狙って更に撃ち続ける。その一方でリコのイメージから生成されたテロリストたちは援軍を呼んで更に増え続けている。カリーナは、リコは現状を認識できずに混乱しているので、リコの攻撃に耐えながら他のテロリストたちを殲滅してカリーナが空間の解除を終えるのを待つよう指揮官に要請する。
カリーナの無茶な要求に応えてなんとかリコと戦わずにテロリストたちを殲滅した指揮官とSPAS。そして、また空間は暗転した。カリーナが解除に成功したのだ。そして、指揮官の目の前に現れた古びた門。これがリコの本当のヴィータであった。ヴィータの中は、無数の花が咲き乱れる、異様に静かな花畑であった。そこで指揮官を待っていたのは、ホテルに現れた時と同様に軍楽隊の衣装を着たSPASであった。しかし、このSPASはいつもの騒がしい彼女とは違う落ち着いた物腰で「サブリナ」と名乗った。サブリナは自身を「孤独の神の忠実な従僕にして友人」と呼び、指揮官を花畑の奥へと案内する。孤独な神ことリコは、この花畑の中で52年もの間「ジャン」の訪れを待っていたのだという。サブリナは、指揮官をリコの待つ繭のような小屋へと招き入れた。サブリナは、この空間における全ての権限をリコに託して去っていったのは「ジャン」だと言う。そして、指揮官が本物のジャンではないことを知っていた。そして、本物のジャンではなくともリコを救うことができると言う。サブリナは、自分はリコの心の影が生んだ存在であり、ジャン以外の全てを拒んでこの花畑に閉じこもったリコの世話をしていたのだと言う。しかし、ある日、この空間に別の少女が現れると、サブリナにこの空間を改変する権限を与えた。そしてサブリナは、リコに幸せな夢を見せながら眠らせ続けていたのだ。しかし、その夢は終わってしまった。「借りたものを返す時が来た」と言うサブリナの姿と名前は、夢の空間を構成していたものと同様にSPASのメンタルから取り出したものであった(註:SPASが民生人形だった頃の名前は「サブリナ・フランキ」だった)。その姿を取ったのは、指揮官を安心させて信頼してもらうためだと言う。このヴィータが終わると消えてしまうサブリナのことを案ずる指揮官だったが、サブリナは「その優しさはあの子のために取っておいてください」と言うと、指揮官をリコに引き合わせる。

生まれついての全身麻痺患者であったリコにとって、義体に改造されて動ける身体を得たことは何よりうれしいことだった。自由に動き回ってジャンの役に立てることがリコにとっての全てだった。ジャンの役に立てなくなることは、リコにとって何もかもを失うことと同じだった。

外套と王冠を身に着け、玉座で眠りについていたリコは目を覚ました。リコを連れて帰ると言う指揮官に、「また新しい任務ですか」と問うリコ。指揮官は、もう戦う必要はないと答える。しかし、リコは戦わない自分には何の価値もないと言う。指揮官は、リコには生きる理由があり、夢の中以外でもやりたいことを実現できるのだと言うとリコを玉座から立たせた。傍らに控えていたサブリナは、最後の権限を使ってこの空間を最初に指揮官とリコが出会ったホテルのレストランへと改変した。リコの姿も、あの時と同じメイド服。手には銃ではなく、コーヒーの入ったティーポットがあった。ジャンにコーヒーを入れることを楽しんでいるリコの姿は幸せそうだった。二人で夕陽を眺めながら、リコに戻ろうと呼び掛ける指揮官。リコもそれに明るく応える。そして、空間はまた白くなっていった。この物語はエンディングを迎えたのだ。

このデータベースサーバーには、本物のジャン・クローチェが記した独白が残されていた。復讐の道具として厳しく接する自分に対しても常に笑顔を返し、目に映る全てに感激するリコに対する強い罪悪感。自分を慕うリコの気持ちを利用する自身への嫌悪。だから、ジャンはこの仮想空間ではリコを人殺しのサイボーグではなく幸せになる価値のある人間として扱いたかった。「幸せでいてくれ、リコ」、それがジャンの残したメッセージだった。

トリエラは、殺し屋ピノッキオに敗れた過去の悔恨を仮想世界での勝利によって塗り替えた

指揮官が庭園に戻ってきた時には、また夜になっていた。庭園には、ヘンリエッタが弾くバイオリンの音が響いていた。ヘンリエッタのバイオリンはそれほど上手ではなく、グリフィン所属の戦術人形にはもっと巧い者もいる。しかし、小さな体ながら全力で演奏に取り組むその姿が指揮官を感動させていた。指揮官が呼び掛けると、ヘンリエッタは演奏を止めてすぐに駆け寄ってきた。しかし、すぐにむくれた顔で自分を連れて行かなかったことへの不満を示した。自分がいればもっと安全に解決できた、と言うヘンリエッタ。眠っていたヘンリエッタを起こしたくなかったと言う指揮官に、ヘンリエッタは、怒っているわけではなく自分が役立てる機会を逃したことが悔しいのだと言う。そんなヘンリエッタに、指揮官は連れ帰ったリコを引き合わせる。再会を喜び合う二人だったが、リコはさっきまで会っていたはずのジャンがこの場にいないことを不思議がっていた。アンジェリカたちと担当官の帰りを待とうと言うヘンリエッタに、リコは見ていた夢の話をしたいと言う。二人は連れ立って庭園の奥へと向かった。同じくヴィータから解放されたSPASはいつの間にか庭園の大樹の下に倒れており、カノがその頬をつついていた。カノが言うには、いきなり樹上から落ちてきたらしい。目を覚ましたSPASは、自分がどうやってヴィータから出てきたかを覚えていなかった。戸惑うSPASに、カノはお菓子を勧める。すっかりヘンリエッタたちと仲良くなったカノは、この庭園にあるものは好きに使っていいと言われていたのだ。
SPASはカノと共にお菓子を食べに行ってしまい、一人残った指揮官はこれまでのことを整理していた。しかし、現時点ではこの仮想空間は誰が何のために作ったもので、どういう目的で人形のメンタルを捕獲していたのかがわからない。そして、リコのヴィータ内でサブリナが言っていた、彼女に空間を改変する権限を与えた少女とは何者だったのか。指揮官が考え事をしている間に、再び朝が訪れた。
SPASが独り占めしようとしていたのをカノが取り上げて持ってきたケーキを朝食にしながら、指揮官は義体の少女たちが笑い合う光景を眺めていた。体感時間ではかなりの長時間滞在しているにも関わらず、指揮官は疲労を感じていない。この庭園の居心地の良さから、ここに定住してもいいかもしれないと思いながらも、その気持ちを振り払いグリフィンの指揮官としての責務を果たすためにカリーナへ暗号化通信を送った。これまでの状況をカリーナと共有した指揮官は、謎を解く鍵はこの仮想空間の成立由来にあるのではないかと言う。カリーナは外部からこのサーバーについてもっと詳しく調べることを決め、指揮官にあと2人の人形を早く見つけるよう指揮官に要請する。指揮官もそれを了承した。すると、いつの間にか傍にいたヘンリエッタから誰かと話しているのかと尋ねられる。慌てて話を逸らした指揮官に、ヘンリエッタはただ近くにいたかっただけだと言い、「フラテッロ」とはそういうものだと主張する。怪しまれないようヘンリエッタのその言葉を曖昧に肯定する指揮官。
ヘンリエッタは、リコが言う「夢」とは、ヴィータの中の出来事かと尋ねる。「ヴィータの中にまた別の仮想空間があった」という話は説明しづらいため、指揮官は「そうかもしれない」と曖昧に答える。ヘンリエッタは指揮官がリコを連れ戻したことに感謝し、指揮官は義体を助けるのは直接の担当でなくとも担当官の職務だと言う。それをジョゼの優しさだと言うヘンリエッタは、「いい夢でも、それはただの夢ですよね?」と問いかける。その問いを曖昧に肯定しながら、指揮官はヘンリエッタに、この空間内の権限を改変する力を与えることができる少女に心当たりはないかと尋ねる。しかし、ヘンリエッタはそんな人物は知らないと答えた。そして、別のヴィータに行けば何かがわかるかもしれないと言い、他の義体や人形たちがおしゃべりに興じている間にこっそり出発しようと促す。ヘンリエッタもあと二人の義体、トリエラとクラエスに早く会いたいと言うのだ。指揮官は、その二人がヴィータに籠ってからどれぐらい経つのかを尋ねると、ヘンリエッタは「17万時間ぐらい」と答えた。換算して約19年以上である。驚く指揮官に、もうそれが長いのか短いのかわからないと答えるヘンリエッタ。指揮官は、長い間離れ離れになっている彼女たちを再会させるためにも早くヴィータを攻略する決意を固めるのだった。
トリエラについての情報を持たない指揮官に、「トリエラのことも忘れちゃったんですか?」と言うヘンリエッタ。記憶が薄れてしまったと弁解する指揮官に、ヘンリエッタは改めてトリエラについて説明する。義体の中では最も強く、かつて五共和国派に所属する凄腕の殺し屋「ピノッキオ」を倒したことがあると言う。トリエラはピノッキオに勝つためにイタリア軍特殊部隊GISの過酷な訓練に参加したのだと自慢げに語るヘンリエッタ。指揮官はカリーナから送られたトリエラの戦闘データに目を通し、義体の中でも特筆すべき実力者であると理解した。指揮官は、このヴィータに設定された物語はトリエラとピノッキオの戦いにまつわる話になるのではと推察していた。

そして、指揮官はヴィータに入った。今度は、指揮官に割り当てられた役柄はトリエラの担当官であるヒルシャーであった。入って早々に目の前にいる長身で褐色肌の少女トリエラに指示を求められ、思わず戸惑ってしまう。ここは部屋の中で、目の前には双眼鏡がある。どうやらここで何かを監視しているらしい。アンジェリカの時と同様に配役を割り当てられなかったため声だけが聞こえるヘンリエッタが、この状況はトリエラが初めてピノッキオの逮捕に向かった時の再現だと説明する。この時にはトリエラはまだGISの訓練を受けていなかったため、ピノッキオに敗れて逃走を許したのだと言う。指揮官は、ここでヒルシャーとしてトリエラをうまく指揮してピノッキオを捕らえれば、この物語は終わると判断した。ヘンリエッタも「ジョゼさんなら絶対大丈夫ですよ」と応援する。
トリエラからの報告によると、「失踪した公安部員の行方を追っていたら五共和国派の殺し屋ピノッキオに行き当たり、ピノッキオを逮捕するために隠れ家の近辺を捜索している」ということであった。ストーリーは、現時点までは記録されている情報通りに進行していた。ヒルシャーという役を演じている限り、トリエラとの信頼を改めて構築する手間は特に必要ない。後は、シノがどういう役をあてがわれて登場するかであったが、指揮官には薄々見当がついていた。指揮官は、トリエラからピノッキオの部屋に出入りしている少女に盗聴器を取り付けたという報告を受けた。トリエラは、ピノッキオは遠距離狙撃を得意とする殺し屋だと言う。事前に調べた情報だとピノッキオはナイフ使いの名手ということだったため、不思議そうな表情をした指揮官にトリエラは「公社から配布された資料を読んでいなかったんですか? ヒルシャーさんらしくないですね」と言う。指揮官は、ここから物語が実際の情報とは違う方向に向かっていることを理解すると同時に、狙撃手ということからピノッキオに配役されたのがシノだという確信を得る(註:シノことカルカノM91/38は狙撃を得意とする戦術人形である)。指揮官はトリエラに謝ると、支部からの増援を待って踏み込むよう指示を出す。しかしトリエラは、早く突入しないと先ほどの盗聴器を付けた少女に危険が及ぶと主張する。「彼女を見殺しにして後から義体にでもするつもりですか?」と皮肉を言うトリエラ。指揮官は実際の情報を思い返し、地下室でピノッキオと遭遇したトリエラは相手が人間だと油断して近接戦闘で敗北したことを確認する。しかし、今回のピノッキオは狙撃手として設定されているため、格闘戦なら義体のトリエラに有利だと指揮官は推測した。そうなるとシノがトリエラに殺されてしまうかもしれないと思った指揮官は、自分が地下室に突入して先にシノと接触すべきだと考えてトリエラに屋上からの挟撃を命じる。トリエラは、狭い地下室ならヒルシャーより身体が小さい自分の方が有利だと主張するが、指揮官は、トリエラが上部に位置取って射撃する方が有効だと言う。納得できないながらも指示に従うトリエラに、指揮官は「無理をするな」と声を掛ける。しかしトリエラは、「自分は義体なので大丈夫です」と返すのだった。
指揮官は地下室に突入する準備を整えながら、このヴィータのルールに従うなら自分はピノッキオを演じているシノと戦わなければならない可能性があると考え、その覚悟を固めていた。仮想空間でお互い配役としての制約を受けている中であれば、本来なら敵わない戦術人形相手でも1対1で勝利できるかもしれない。トリエラが屋上からの突入準備を終えたことを無線で確認した指揮官は、地下室に突入した。しかし、本来であればピノッキオが潜伏しているはずの地下室は既に無人だった。配役の影響で物語が変化していることを確認した指揮官だったが、その時銃声と共に無線からトリエラの悲鳴が聞こえてきた。ピノッキオは屋上で待ち伏せしており、突入しようとしたトリエラを狙撃したのだ。足を負傷しながらも「大丈夫です」と言うトリエラ。ピノッキオはこちらの作戦を予測していたのだ。外に出てトリエラを援護しようと言う指揮官だったが、今そちらに向かうと狙撃されると言う。トリエラは、自身が囮となってピノッキオを引きつけている間に、指揮官が狙撃ポイントの死角から回り込んで捕獲する作戦を提案した。指揮官は反対したが、人間の反応速度では本気になった義体の動きを捉えることはできないと言うトリエラを信じて囮を任せることを決断する。
指揮官は、トリエラが割り出したピノッキオの狙撃ポイントへと向かっていた。トリエラも態勢を立て直し、次の狙撃に備える。そして物陰から一瞬だけ頭を出したが、その瞬間に精確な狙撃による銃弾が放たれた。たとえ義体のトリエラであっても、あとわずかでも反応が遅れたら頭部を撃たれ致命傷になっていた。トリエラは、撃たれないよう地面を這いながら、少しずつピノッキオの狙撃ポイントへ向けて移動する。その最中に、トリエラはさっきの狙撃で判明したピノッキオの明確な所在位置を指揮官に報告する。指揮官が突入準備をすると共に、トリエラはピノッキオが潜んでいるビルの窓を目がけて拳銃を乱射した。無論これでピノッキオを倒せるとは思っておらず、撹乱射撃で指揮官が突入する隙を作るためであった。ピノッキオがすぐに反撃してこなかったため、まぐれ当たりで倒せたかと思ったトリエラ。しかし次の瞬間、トリエラの拳銃はピノッキオの狙撃で破壊されてしまった。その反動でトリエラ自身も地面に倒れ伏してしまう。無線でトリエラの安否を確認した指揮官は、ピノッキオが潜んでいるビルの一室にドアを蹴破り突入した。予想通り室内には他のテロリストがいたが、彼らはトリエラが隠れている方向へ銃を向けていた。彼らが突入に気付いた時には既に遅く、指揮官は手慣れた様子でテロリストたちを射殺した。そして、室内の階段を駆け登ると、窓から飛び降りて逃走しようとしているシノがいた。やはりピノッキオに配役されていたのはシノであった。呼びかけに応えたシノの様子から、彼女は記憶が改竄されていないのではと思った指揮官だったが、次の瞬間シノは指揮官に銃を向け、指揮官は慌てて物陰へと隠れる。シノは先ほどまで指揮官がいた場所へ発砲すると、すぐに窓から飛び降りた。指揮官は、シノの虚言癖を思い出していた。ピノッキオの役でありながら、シノ本来の性格は残っている。そこに銃声を聞いたトリエラから連絡が入った。指揮官は自身の無事を報告すると、ピノッキオを追うよう指示を出す。しかしトリエラは、この建物の周囲にテロリストの増援が展開しているため今動くのは危険だと言う。指揮官は、本来はここにいないはずの敵増援も物語が変化したことで発生したのだろうと思っていた。

トリエラにとって、自身の慢心からピノッキオとの初戦に敗れたのは苦い記憶だった。ヒルシャーからもらった大切な拳銃を奪われ、自分がその銃で撃たれたことは許しがたいことであった。特訓の末に再戦でピノッキオを仕留めたことを、ヒルシャーが褒めてくれなかったのは不満だった。
トリエラが見る夢には、眼鏡をかけた女性が出てくる。優しく抱き締めてくれた彼女を、トリエラは自分の母だと認識していた(註:義体になる以前のトリエラをマフィアから救って殉職した欧州警察機構時代のヒルシャーの同僚、ラシェル・ベローについての記憶であった)。

建物を包囲していたテロリストたちを殲滅した指揮官とトリエラは、逃走したピノッキオの追跡を再開した。指揮官はトリエラに屋上からピノッキオの現在位置を確認するよう命じる。ピノッキオが緑色の服を着た少女だと聞かされたトリエラは自分の持っている情報と違うことに戸惑うが、すぐに指示通りに動く。指揮官は自動車を使いピノッキオを追うことにした。ここでシノを取り逃がしたら物語がどう変化するかわからないと考えた指揮官は、何があってもここでシノを捕らえるつもりだった。指揮官が車を発進させてすぐに、ピノッキオの位置を確認したトリエラが飛び乗ってきた。指揮官は、トリエラの案内でピノッキオを追う。
自分が追走されていることに気付いたピノッキオは、すぐに向き直ると車を狙って銃を撃ってきた。初弾は指揮官が巧みなハンドル捌きでかわしたが、タイヤを狙っての二発目は命中。制御不能に陥った車は消火栓に衝突し、指揮官はエアバッグに挟まって身動きが取れなくなった。指揮官は、たとえ役柄の制約があっても戦術人形にとってこのぐらいの狙撃は造作もないということを忘れていたことを悔やむ。指揮官が苦しんでいる姿を見て「たとえヴィータの中でもジョゼさんを傷つけるのは許せません」と激昂したヘンリエッタは、外部から干渉すると言いそのままこの場から離れてしまった。ナイフでエアバッグを裂いた指揮官だったが、運転席のドアが塞がって出ることができない。そこに近づいたピノッキオは、指揮官に銃口を向ける。指揮官はシノが完全にピノッキオになってしまったと思い観念するが、シノは「私はピノッキオであってピノッキオではありません」と言い、発砲を躊躇う。指揮官に既視感と懐かしさを感じたピノッキオは、引き金を引くことができないようであった。シノとしての記憶がよみがえったのか混乱しているピノッキオの隙をつき、指揮官は運転席のドアをこじ開けて車から脱出する。それを見て再び銃口を向けるピノッキオだったが、頭痛と共にシノとしての記憶がより鮮明になっていき動きが止まる。それを見た指揮官は好機と思い説得を続けるが、混乱したピノッキオは走り去ってしまった。指揮官は、シノからピノッキオとしての役割が抜け落ちつつあるのはヘンリエッタによる干渉ではないかと思っていた。指揮官は痛みに耐えながら必死でピノッキオを追う。指揮官はヘンリエッタを呼ぶが、ヘンリエッタは激しく疲労しているようで、休憩を取るという言葉を最後に連絡が途絶えた。このことからヘンリエッタが強制的にヴィータに干渉したと判断した指揮官はカリーナに連絡を取る。状況を監視していたカリーナも、何者かが外部からストーリーを書き換えたことを報告してきた。カリーナは、もし物語の途中で役者が我に返ったら、物語は矛盾を起こして仮想空間自体が崩壊すると言う。もし仮想空間が崩壊したら、ヴィータからの出口までも消滅してしまうのだ。それを停止できないかと言う指揮官だったが、カリーナは、このヴィータの演算にシノのメンタルモデルが使用されているため、強引に外部から干渉するとシノのメンタルモデル自体が崩壊してしまうと言う。そして、先ほどのリコのヴィータにも外部からの干渉の痕跡があり、またヘンリエッタの動きにも疑わしいところがあったと言う。言外にヘンリエッタが事件の主犯ではないかと仄めかすカリーナだったが、指揮官は、今はそれよりピノッキオを捕まえて物語が崩壊する前にエンディングを迎えるべきだと言う。カリーナは、この物語の本来のシナリオは、この後一度敗北したトリエラが特訓によって強くなり、ピノッキオと再戦し勝利するという設定であると言う。しかし、もうそれを正常に進行させている余裕はない。つまり、ここでトリエラがピノッキオに勝つことが最短でのシナリオクリアとなるのだ。ここでシノが倒されることでメンタルモデルに悪影響が出ることはないかと尋ねる指揮官だったが、せいぜいシノに嫌な思い出が残るぐらいだとカリーナは答える。指揮官はそれを聞いて少し躊躇うが、それでも物語を終わらせるためにピノッキオを追わなければならなかった。
配役による制約があっても、やはり人間と戦術人形では体力が違う。指揮官はピノッキオとの距離を詰めることができず、どんどん引き離されていく。そこに現れたのは、ピノッキオに撃たれて壊れかけた車を運転してきたトリエラだった。指揮官は、トリエラにピノッキオを倒すよう指示を出す。「公社からの指示は生け捕りでは」と言うトリエラに、そんな余裕はない、必ず倒せ、と念を押す。その言葉に意気込んだトリエラは、アクセルを踏んでピノッキオへと突っ込む。それをなんとか回避したピノッキオは運転席を狙って銃撃するが、それを予測していたトリエラは助手席側へと移動しており、すれ違いざまにショットガンでの一撃をピノッキオへと放った。至近距離からの銃撃によってピノッキオが倒されたことで、ヴィータ全体が白い光へと包まれる。物語はエンディングを迎えたのだ。消えていく世界で、指揮官が演じるヒルシャーに「褒めてくれますか?」と問うトリエラ。指揮官はそんなトリエラを称賛する。そして、トリエラも光の中へ消えていった。物語が終わった真っ暗なヴィータの中で指揮官を出迎えたのはヘンリエッタだった。ヘンリエッタは、トリエラの物語が本来の出来事よりも痛みや苦しみが少ない展開で終わったことに何かしらの引っかかりがあるようだった。「もし私のエンディングもこんな風だったら」とつぶやいたヘンリエッタは、まだ疲労が残っているようだった。指揮官は、ヘンリエッタがさっきのヴィータ内でシノの記憶に干渉したのかを尋ねる。しかしヘンリエッタは何も答えず、ただうつむいて考え込んでいるだけだった。しばらくの沈黙の後、顔を上げたヘンリエッタはすぐに次のヴィータへ向かうよう提案してきた。一旦庭園に戻ろうという指揮官に「もう時間がありません」と言うヘンリエッタは、すべての疑問については次のヴィータの中で答えると告げたのだった。

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